第128章 熊元家はろくなものがいない

「今から向かいます」

杏璃はそう言うなり、すぐに服を引っつかんで出かける支度を始めた。

受話器の向こうから、大原晴樹の低い声が落ちてくる。

「明日にしろ。もう遅い」

杏璃がなおも食い下がるのを警戒したのか、彼は少し間を置いて付け足した。

「おばあちゃんはもう休んだ」

その一言で、杏璃の手が止まる。

「分かった。じゃあ明日の朝いちで行くね」

言い終えたら、いつも通りぶつりと切られる――そう思ったのに、今日は違った。

向こうはなぜか、なかなか通話を終えない。

月明かりの中、男の重い呼吸だけが耳に残る。

ひとつ、またひとつ。胸の奥に沈めた何かが、波のように上下しているみたいで...

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