第159章 まだ弱みが熊元家の手にある

杏璃も反射的に、脇に置いてあったハンカチを手に取って差し出した。

――その刹那。二人の手が、同じ場所を掴んでしまう。

ほんの一瞬だったのに、杏璃は全身の血がすっと固まった気がした。

呆然と顔を上げると、大原晴樹もまた、こちらを見ている。

触れたのは指先だけ。

それでも、その短すぎる接触が二人をその場に縫い止め、しばらく誰も動けなかった。

杏璃には、その感覚をうまく言葉にできない。

冬はずっと冷たいものだと信じていて、もうそれを受け入れたはずなのに――その冷たさの隙間から、細いぬくもりがさらさらと全身を撫でていく。

「冬だって、冷たくないことがある」

そう囁かれたみたいに。

...

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