第160章 杏璃と熊元一郎の内緒話

二人は向かい合って腰を下ろした。だが空気だけが、やけに張りつめている。

言葉を交わしたわけでも、何かしたわけでもない。それでも周囲の人間には分かるのだ。この二人の気配が、噛み合っていないことが。

杏璃は目の前のコーヒーを持ち上げ、ひと口だけ啜った。態度はあくまで気だるげで、先に口を開く気配はない。

この勝負で先に喋ったほうが負ける。杏璃はそれを、よく分かっていた。

熊元一郎も同じ考えなのだろう。彼は薄く笑ったまま杏璃を見つめ、何も言わない。

秒針だけが進む。二人の前のカップはいつの間にか空になっていたが、それでも沈黙は破られなかった。

このままでは今日、話が一歩も進まない。杏璃は...

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