第9章 手放したほうがいい

西川結人は淡く笑み、掴んでいた手首を放した。そのまま杏璃を自分の背へ庇う。

「大原社長。ご無沙汰しております」

大原晴樹は眉間に皺を寄せ、目の奥に一瞬だけ意外そうな色を走らせた。

「西川結人? どうしてここにいる」

家柄も背景も小さくない男だが、界隈と深く付き合うことは滅多にない。普段から掴みどころがなく、どこか神秘的ですらあった。

大原晴樹が彼を最後に見たのは、杏璃との結婚式だ。杏璃の先輩として出席していた。

西川結人は問いに答えない。視線だけを杏璃の手首へ落とす。

赤い痕は腫れ、熱を帯びている。

「むしろ、こちらが伺いたい」

声が低く沈む。

「大原社長、これは何を?」...

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