第91章 彼女の汚れを拭き取る

名義上の不動産は五件すべて杏璃に譲渡。加えて、まとまった現金と、わずかな持ち株――補償としては、十分すぎるほどだった。

本来、杏璃は身ひとつで出ていくつもりだった。大原晴樹のものは、何ひとつ持ち出さない。そう決めていた。

けれど、ふと思う。

――お金と喧嘩して、何になる?

そう腹を括った杏璃は迷いなく万年筆を取り、署名に取りかかった。

最初の「大原」の一画を書き入れた、そのとき。

大原晴樹が淡々と口を開いた。

「……もう少し、ちゃんと見なくていいのか」

杏璃の手がぴたりと止まる。すぐに離婚協議書を持ち直し、最初から最後まで改めて目を通した。

杏璃の目には、これといって不自然...

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