チャプター 3

パーティーもお開きが近づき、客はぽつりぽつりと帰っていった。

パトリシアはカルヴィンの肩から手を離し、柔らかく微笑んだ。「ありがとう」

カルヴィンはにやりと肩をすくめる。「何に?」

「ダンスに誘ってくれたことよ」パトリシアが答える。

「ホワイトさんを踊りに誘いたい人なんて山ほどいたさ。たまたま俺が運がよかっただけ」カルヴィンは朗らかに言った。

その軽い口調とは裏腹に、パトリシアの胸には本物の感謝が湧いていた。

さっきまで、彼女に視線を向けてはダンスに誘いたそうにしている人間は大勢いた。だが彼女がチャールズの妻だというだけで、誰ひとり踏み込めなかったのだ。

もしカルヴィンが名乗り出ていなければ、彼女はチャールズと踊らされていたかもしれない――もっとも、チャールズが彼女を選ぶはずもないのに。それを思うだけで、ひどく気まずい。

カルヴィンへの感謝に気を取られ、彼が周囲とは違う呼び方で自分を呼んでいたことに、パトリシアは気づかなかった。

「とにかく、もう一度ありがとう」パトリシアが言う。

カルヴィンは動じることなく、紳士のように手を差し出した。「そんなに礼がしたいなら、家まで送らせてくれないか?」

パトリシアが返事をしようとした、そのとき。

背後からポールの焦った声が飛んだ。

「お、お嬢さま、危ないです」

振り向くと、愛らしい娘のエミリーが、プリンセスのドレスの裾を持ち上げてこちらへ駆けてくるところだった。「ママ!」

エミリーはパトリシアの脚にしがみつき、まん丸な瞳をきらきらさせて見上げる。「ママ、だっこ!」

「エミリー、どうしてここに?」パトリシアは驚いて尋ねた。

「エミリーお嬢さまが目を覚まして、奥さまを呼び続けるものですから……それでお連れしました」ポールは心配そうに言った。

「チャールズは?」パトリシアはエミリーをそっと抱き上げ、背中を軽く叩きながら尋ねる。

「アンダーソンさまは、その……」ポールは気まずそうに頬をかき、背後へ目をやった。

酒の匂いをぷんとまとわせたチャールズが、ようやく姿を現した。

「パパ、あそこ」エミリーはパトリシアの首に腕を回し、ちゅっと頬にキスをする。「ママはいい匂い、パパはくさーい」可愛らしく鼻をつまむ仕草までしてみせた。

ポールは額の汗をぬぐい、板挟みになるのを恐れていた。

パトリシアの目が冷たく細まる。「子どもの面倒を見ながらお酒を飲んでいたの?」

ポールは肩を強張らせた。言い争いになったらどうする。よりにもよって今日が自分の当番だなんて。

ついていない、と思った。

「もう遅いし、エミリーを家に連れて帰って寝かせようとした。だが、おまえを探すと言って聞かなかった。抱っこもさせない。だから、おまえは別の男と踊っていて、今は一緒にいられないと言っておいた」チャールズは何でもないように口にしたが、その言い方は普段の彼らしくなかった。

ポールは息をのんだ。不満の表れだろうか。

それとも聞き違いか。でなければ、なぜ主が感情を滲ませているように聞こえるのか。

パトリシアは鼻で笑った。今さら彼が自分を責めるつもり? 先に別の女を選んだのは彼のほうだ。

チャールズは続ける。「エミリーの面倒を見る気がない、別の相手といたいというなら、俺が連れて帰る」

チャールズがエミリーを抱き取ろうと手を伸ばした瞬間、パトリシアはためらいなく身を引き、侮蔑するように彼を見た。

「エミリーはその匂いが嫌なの」

チャールズは一歩ずれ、さりげなくカルヴィンの前に立つようにして、パトリシアとエミリーのための空間を作った。

「ホワイトさん」カルヴィンがちょうどよく口を挟む。穏やかな笑みを浮かべて。「ご用事があるなら、邪魔はしません。また別の機会に」

パトリシアは申し訳なさそうにうなずいた。「ごめんなさい。次は私が夕食をごちそうするわ」

カルヴィンの誘いを断る言葉を聞き、チャールズの唇が、ほんのわずかに持ち上がった。

カルヴィンは意味ありげに二人を見やり、「ホワイトさん、また」と言った。

そう話しているうちに、エミリーはまた眠ってしまった。パトリシアはポールに先に立つよう促し、眠った娘を抱えたまま車へ向かった。

チャールズは数歩ついてきたところで足を止め、振り返ってカルヴィンを見た。

長い沈黙ののち、彼は言った。「スコット氏。帰国されたばかりで、ご存じないこともあるだろう」

長い指がゆっくりとカフスのボタンを留める。その所作には、さきほどの酔いなど微塵も感じられなかった。

「だが覚えておいてほしい。彼女はホワイトさんではなく、アンダーソン夫人だ」

「次は、間違えるな」

そう言い残し、彼はパトリシアとエミリーのほうへ歩み寄った。

車内は沈黙に支配され、空気は張りつめていた。

聞こえるのは、眠るエミリーの規則正しい寝息だけだった。

パトリシアは腕の中のエミリーの体勢をそっと直し、膝の上に寝かせると、少しでも楽になるよう髪留めをやさしく外してやった。

チャールズは黙ってその様子を見守っていた。車に乗ってからというもの、パトリシアは一言も発さず、意識のすべてを娘に向けている。

今夜のパトリシアは、数日前にアンダーソン家へ迎え入れられた、あの気弱な女とはまるで違って見えた。

婚姻届を出した日、彼女は顔を伏せたまま、まるで自分の存在を消そうとするかのようで、彼をまともに見ることさえできなかったのに。

だが今夜のパーティーでは、別人のようだった。エミリーを抱き続けて疲れが滲んだのを見て、チャールズの目に驚きが走る。

「俺が抱く」

「だめ」パトリシアは反射的に言い切った。「お酒の匂いが強すぎる。エミリーがよく眠れないわ。もう二度と、この子の前で飲まないで」

チャールズの目が鋭く光ったが、口にしたのは別の言葉だった。「わかった。だが次は、エミリーの前でほかの男と踊るな」

パトリシアはその言い方にも腹を立てなかった。腕を伸ばして肩をほぐしながら言う。「あなたこそ、アイリーンの誘いを受けて踊ってたじゃない。楽しかったんでしょ?」

前の人生で、彼女はそのパーティーに出ていない。チャールズが彼女を見つけた時、顔は陰っていて、気遣いのひと言もないまま「車で待て」とだけ告げた。アイリーンに部屋へ閉じ込められた一件も、なかったことのように流された。

「今夜のパーティーは、商売人だらけだ。一挙手一投足が見られている」チャールズは腕時計に目を落とした。「お前はアンダーソン夫人だ。責務を果たせ」

「責務って何よ」パトリシアは理由のわからない怒りが胸の底から湧き上がるのを感じた。「私はアンダーソン夫人になりたくてなったわけじゃない」

チャールズは眉を上げ、腕を組んで続きを促すように構える。

「信じようが信じまいが、私はそういうの、どうでもいいの」

四年前、パトリシアは大学を卒業し、一流のファッションデザイナーのアシスタントとして内定を得た。

友人のニコール・クラークと祝いに飲みに出かけ、そこで薬を盛られ、気がつけばチャールズと同じベッドにいた。望まぬ妊娠――それがエミリーを授かるきっかけになった。

だがチャールズにとってそれは、すべて仕組まれた罠だった。そうしてエミリーが生まれた。

さらに四年後。エミリーを連れてシルバーピーク市へ戻る途中、アンダーソン家に行く手を阻まれ、エミリーは強引に「家」へ連れ戻された。

圧倒的な家柄と、息が詰まるほどの支配的な空気。娘のために、パトリシアは逆らえなかった。

アンダーソン家は血筋を何より重んじる。ウィリアム・アンダーソンの圧力のもと、チャールズは婚姻届を出した。

前の人生で、二人の関係がようやく和らいだのは、エミリーが五歳になってからだった。

互いに惹かれ合っているように見えた時期さえあったのに、やがてパトリシアは知ってしまう。チャールズにはずっと、愛する相手がいたのだと。

彼は人を愛せる。だが、それは彼女ではない。

パトリシアの瞳に影が落ちる。今の人生では、チャールズが誰を愛そうと構わない。彼女が気にするのは、ただエミリーの未来だけだった。

チャールズは彼女を二度ほど横目で見て、黙ってその言葉の意味を量った。

彼の疑念は消えていない。一夜の出来事は、いまだに説明がつかない。もしパトリシアの言うことが本当だとしたら――チャールズの目は氷のように冷たくなる。

帰宅すると、パトリシアはエミリーをメイドのエリー・スミスに預け、主寝室へ向かってシャワーを浴びた。

パーティーで神経が擦り減っていた。手早く洗い、肌触りのいい寝間着に着替えて出てくると、チャールズがベッドに半身を預けるようにして横たわっている。

「ここで何して……」

チャールズは口元に指を当て、隣で眠るエミリーを指さした。

「エミリーを起こすな」

パトリシアは睨みつけ、苛立ちを込めて扉を指した。「出て行って」

チャールズは、エミリーに握られている手をゆっくり持ち上げ、声を出さずに唇だけ動かした。――「エミリーが離してくれない」

パトリシアは歩み寄り、エミリーの手をそっとほどいて、もう一度扉を指す。「出て」

するとエミリーの手は目でもついているかのように、すぐさま二人の手をまとめて掴んだ。小さなまぶたが一瞬だけひらき、また閉じる。「パパ……いっしょ……ねんね……」

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