チャプター 6

チャールズが寝室の扉を押し開けると、そこには真っ暗な部屋が広がっていた。

彼は灯りをつけて中へ入った。掛け布団の下に潜り込んでいるパトリシアから、くぐもった声が聞こえる。

「エリー……夕飯に呼ばないで。お腹空いてないの」

ベッドサイドのテーブルではタブレット端末が何かを再生していた。チャールズは蜂蜜湯をいったん脇に置き、布団をつつく。

「ほら、これ飲め。蜂蜜湯だ」

エリーではない声を聞いて、パトリシアはゆっくりと布団から出てきた。目だけを覗かせ、チャールズを見上げる。

チャールズは彼女を一瞥し、それからベッドサイドのカップへ目をやった。「飲め。少しは楽になる」

パトリシアは、こんなにひどい痛みを最後に味わったのがいつだったか、思い出せないほどだった。

記憶がふっと漂い、結婚して間もない頃、彼女が同じように苦しむのをチャールズが見て、医者に診せた日のことが蘇る。こんなふうになるのは、ずいぶん久しぶりだ。

思考は過去へ引き戻され、三十歳のチャールズと、目の前にいる三十五歳のチャールズが重なっていく。

「……いや」パトリシアは胃の奥がねじれるように痛み、焦点の合わない目をしていた。

チャールズは聞き取れず、身を乗り出す。

「何だって?」

「いらない……蜂蜜湯なんて。あなた、知ってるでしょ」額には冷や汗が浮かんでいた。波のように来る痛みのたび、死んでしまいそうな気分になる。

――知ってる? チャールズは困惑した。いつ、そんなことを知ったというんだ。

「いつもこんなに痛むのか?」血の気のない、生気の薄れた顔を見て、胸がちくりとした。声音もいつもより柔らかい。

「痛い……」

痛みで耳鳴りがして、彼の言葉を聞き分ける力も残っていなかった。

あまりの痛みに押し流されたのか、パトリシアはチャールズの手を引き、布団の中へ入れた。

チャールズの掌は厚く、自然と温かい。冷えた腹に触れた瞬間、その温もりがわずかに楽にしてくれる。パトリシアはその手を握り、何度も自分の腹の上で擦った。

チャールズは固まった。パトリシアの行動に驚き、呆然と見つめる。

部屋はしばらく沈黙に包まれ、やがて低い声が静けさを割った。その声に、パトリシアの意識が現実へ引き戻される。

「パトリシア、少しは楽になったか?」

パトリシアは、自分が過去のチャールズと取り違えていたことに気づき、慌てて手を離した。取り繕えず、うろたえた表情になる。

チャールズは読めない顔のまま彼女を見て、喉仏が上下した。

パトリシアは気まずさに頬が熱くなる。「どうして戻ってきたの?」

階下で何があったか彼女が知らないと見て、チャールズは説明するつもりはなかった。

彼は蜂蜜湯を持ち上げ、差し出す。「先にこれを飲め。まだ具合が悪いなら、かかりつけの医者を呼ぶ」

「いいわ、もうだいぶ楽」パトリシアは気まずそうに頬を掻いた。さっきの妙な行動を思い出し、顔が焼けるように熱い。

「前の晩餐会で調べた。あれはアイリーンがやったことだ。すまない。もう二度と起きない」

アイリーンの話だと聞いた瞬間、パトリシアの羞恥はすっと引いた。チャールズが急に戻ってきた理由も分かる。アイリーンのために口添えしに来たのだ。

「それで?」パトリシアは蜂蜜湯をひと口含み、顔をしかめた。蜂蜜湯は好きじゃない。

「動画を投稿したな」

パトリシアの目が冷える。「だから何? 庇い立てしに来たなら帰って。何を言われても、あの女は許さない」

――ふざけた男。パトリシアは心の中で吐き捨てた。

戻ってきたその夜、彼女は人を使って動画をネットに上げ、大量に拡散の手も打って、騒動を上位に押し上げた。

前の人生で自分が味わったものを、アイリーンにも味わわせたかった。

前の人生で、アイリーンや他の女のことでチャールズと何度も言い争った記憶が、彼女を疲れさせる。

「君も当事者だ。そうする権利はある」チャールズはそう説明した。

パトリシアには聞く気などなかった。生理の不快感で苛立っているところへ、目の前で別の女の話をされれば、なおさら腹が立つ。

「アンダーソンさん、私のことに首を突っ込む暇があるなら、娘さんと過ごしたら? この前、エミリーに何も言わずに出ていったでしょう。あの子、何日も落ち込んでたわ」

シャルルはパトリシアに追い出されたが、彼女の具合がよくないのだと思うと、腹を立てる気にはなれなかった。

ここ最近、仕事で立て込んでいたことを思えば、エミリーは確かにエリーを通じて何度も彼に連絡してきていた。シャルルは後ろめたさを覚え、階下へ降りてエミリーと夕食を取ることにした。

エミリーは行儀がよく、三歳にしてすでにフォークの使い方を覚え始めている。

「パパ、今夜いっしょに寝てくれる?」エミリーはパスタの最後のひと口を飲み込み、まんまるな大きな瞳でシャルルを見上げた。

シャルルはナプキンで彼女の口元を拭ってやる。「ママと寝るのも、いいだろう?」

最初のころ、エミリーは彼にあまり懐いていなかった。「パパ」と呼ぶよう促したのはパトリシアだ。

パトリシアは子どもを導くのがうまい。たった数言で、突然現れた父親にエミリーの心をふっと近づけてしまう。

エミリーはとても素直だった。ほかの子が癇癪を起こす場面でも、大人の言うことを理解し、感情を自分で整えられる。

シャルルはその聞き分けのよさに惹かれていった。

エミリーは小さな手で身振りをいくつかしてから、甘い幼い声で言った。「パパとママは、いっしょに寝るんだよね?」

それから自分を指さす。「エミリーも、いっしょがいい」

シャルルは少し考え、即答は避けた。「ママに聞いてごらん」

エミリーは理解したらしい。椅子からするりと降りると、真剣な顔でシャルルを見た。「エミリー、ママに聞いてくる!」

その様子がおかしくて、シャルルは思わず笑ってしまった。

夕食のあと、シャルルはエミリーを連れて二階へ上がった。

パトリシアはだいぶ顔色がよくなっている。エミリーを見ると笑みを浮かべて尋ねた。「エミリー、おなかいっぱい?」

「いっぱい」エミリーは勢いよくうなずき、まんまるな目をきょろきょろさせる。

「どうしたの?」

「ママ、今夜パパ、いっしょに寝ていい?」

パトリシアはぎょっとして、反射的に拒んだ。「だめ」

エミリーの表情は一瞬で曇り、ベッドの上をごろごろ転がった。

「ママいじわる。やだ! やだ! やだ! パパとママといっしょに寝るの!」

「エミリー、駄々をこねないの」パトリシアは声を厳しくする。「それでも言うことを聞かないなら、隅に立っていなさい」

シャルルが口を挟んだ。「子ども相手に、もう少し優しく――」

パトリシアは彼を一瞥すると、顔を曇らせて枕を投げつけた。「エミリー、パパと寝なさい!」

こうして父娘は、パトリシアに主寝室から追い出された。

シャルルは、パトリシアの気まぐれな振る舞いが理解できなかった。

ほかに手もなく、彼はエミリーを客室へ連れていって寝かせた。エミリーはすぐに眠りに落ちた。

シャルルはなかなか眠れなかった。今日のパトリシアの様子がどうにも普通ではない。「わかっているでしょう」という言葉が、壊れたレコードのように頭の中で繰り返される。

その夜、彼は夢を見た。

パトリシアが、ここ数日彼に向けていた眉間のしわもなく、やわらかな眼差しで彼を見つめている夢だ。

彼女はシャルルの頬に手を添え、美しい瞳に濃い情を湛えたまま、何度も何度も彼の名を呼んだ。

まるでずっと昔から彼女を知っていたかのような気がして、腕の中へ抱き寄せ、熱く唇を重ねた。

シャルルは汗びっしょりで目を覚まし、奇妙な既視感に胸がざわついた。

なぜ彼女の夢を、ここ数日続けて見ているのだろう。

チャーチ・グループでは、カルヴィンがスクリーンに映し出された設計図案を見つめていた。映写資料には、デザイナーコンペに寄せられた創作案が並んでいる。

募集要項では、今年のクリスマスをテーマに、祝祭の空気にふさわしいファッションを作ることが求められていた。

スライドがあるページに差しかかったとき、カルヴィンが声を上げた。

「待って。これ、いい」

長いこと見続けて、ようやく条件にかなうものが出てきた。サラ・チャーチと助手は、そろってほっと息をつく。

カルヴィンは、クリスマスのランウェイショーを控えるモデル事務所の人間で、目が肥えているうえ金も惜しまないことで知られていた。

サラはこの大口の客を逃したくない。資料の山から、カルヴィンが気に入った図案の紙の原稿を引き抜いた。

「こちらは弊社のデザイナーコンペの応募作品です。スコット様がお気に召すなら、権利を買い取ってすぐに生産に移れます」

カルヴィンは図案を丹念に検めた。

「このデザイナーは誰だ?」

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