第1章
恵理子視点
スポットライトに照らされ、国立博物館の大理石の階段が煌めいている。私は深紅のドレスの生地を撫でつけ、その絹の冷たさを手のひらに感じた。真の手が私の腰のくぼみに添えられる。温かく、所有欲に満ちた手つき。
「動かないで、あなた。タイが曲がっている」
私は手を伸ばし、彼の蝶ネクタイのシルクを直す。結婚して三年も経てば、こういうことにも慣れてくる。ネクタイの直し方。見知らぬ人への微笑み方。すべてが順調なのだと偽る方法。
「今夜の君は本当に美しいね、恵理子」
彼は私の手を取り、指の関節にキスを落とす。通り過ぎていく夫婦が私たちを見て微笑んだ。その目に宿る感情がわかる。『素敵なご夫婦ですね』。
「あなたも素敵よ、真」
喉元で輝くダイヤモンドが光を捉える。三カラット。流産した後に彼が買ったものだ。私が三ヶ月もの間ベッドに横たわり、天井を見つめ、この体はいつかまた自分のものだと感じられる日が来るのだろうかと思い悩んだ、その後に。
今夜は、私の復帰の夜になるはずだった。天城区の社交界への、私の華々しい再登場。療養から戻った、神崎真夫人としての。
彼の同僚たちはもう中にいる。弦楽四重奏の音色、上流階級の会話のざわめきが聞こえてくる。真は私をドアへと導く。その手は一度も私の腰から離れない。
「皆さん、ご存知、私の優秀な妻です。恵理子は、我々が子作りに専念すると決める前は、金峰で副社長を務めていました」
以前は。その言葉が、煙のように宙を漂う。『あなたのために全てを捨ててしまう前は』。『あの子を失う前は』。『ただの神崎夫人になる前は』。
「神崎夫人、今夜は輝いていますね。お元気になられたようで何よりです」
「ありがとうございます。また戻ってこられて嬉しいです」
その嘘は、シャンパンのように滑らかに口から出た。私はこういうのが上手くなった。感謝に満ちた微笑み。控えめな頷き。いつ話すべきで、いつ夫を輝かせるべきかを心得ている妻。
真の手が私の腰を強く掴む。それは念押し。所有の主張。『これは俺のものだ。見ろ、俺が手に入れたものを』。
青嶺のことを思い出す。七年前。彼は一学期間ずっと、毎日図書館の外で待っていた。そして言った。「葉山恵理子さん、君を一生愛し続けるよ」と。
あなたは、そんなことを言ったのを覚えているだろうか。
夜は、次々と現れる人々の顔へと溶けていく。ビジネスパートナーたち。その妻たち。誰もが同じ質問を投げかけてくる。お加減はいかがですか? またお仕事に復帰されるのですね?
「ありがとうございます」「ご親切にどうも」「はい、もうすっかり」
何度も同じ言葉を繰り返すうち、それは空虚に響くようになった。
八時四十五分になる頃には、私は逃げ出したくなっていた。ほんの少しの間だけ。息をするためだけに。
「ちょっと化粧室に行ってくるわ」と真に告げる。彼は頷いたが、すでにヘッジファンドと四半期リターンの話に夢中だった。
ありがたいことに、化粧室には誰もいなかった。私は洗面台の前に立ち、鏡の中の自分を見つめる。完璧なメイク。髪の一筋の乱れもない。
鏡の中の女は、まるで他人だった。
私は時間をかけた。口紅を直し、髪を整える。あそこに戻って、また演技を始めなければならない瞬間を先延ばしにする。
廊下に戻ったとき、クラッチバッグをテーブルに忘れてきたことに気づいた。私は振り返り、廊下を引き返した。
その時だった。それを聞いたのは。
笑い声。聞き覚えのある笑い声。真の、豊かで温かい声が、私が理解できるはずのない言葉を紡いでいた。
フランス語。彼がフランス語を話している。
私は大理石の柱の陰で凍りついた。冷たい石に手を押し当てる。真がフランス語を? いつから?
心臓が激しく鼓動し始める。隠れていなさいと何かが告げる。聞きなさいと何かが告げる。
「今夜の奥さんは見事だな」
「最初は手応えのある挑戦だったがな。今じゃただ……退屈なだけだ」
その言葉は、まるでまるで殴られたような衝撃を受けた。退屈――。
指がネックレスの留め金を探っていた。無意識にそれを引っ張っている。ダイヤモンドが急に重く、首を締め付けるように感じられた。
「他に誰かいるのか?」
「俺の新しい彼女は二十二歳だ。ベッドじゃ比べ物にならないくらい……興奮させてくれる」
留め金が壊れた。ダイヤモンドが静かな廊下の大理石の床に散らばり、一つ一つが鋭く、輝く音を立てる。
「奥さんが聞こえるぞ?」
「あいつは『ボンジュール』すら理解できないんだぞ。聞いたらわかないだろう?」
二年間。私はパリで二年間も過ごした。白峰大学で二年間。私の論文はフランス印象派についてだった。ボードレールなら寝ながらでも暗唱できる。
なのに彼は知らない。一度も尋ねなかった。一度も気にかけなかった。
ネックレスが落ちる音に、彼が振り返る。彼の顔つきが変わっていくのが見えた。何気ない残酷さから、瞬時に心配の表情へと変わる。
「あなた! どうしたんだ?」
彼は駆け寄り、すぐに膝をついてネックレスを拾い集め始めた。その顔は心配と優しさで満ちている。彼の友人たちは、まるでそんな会話などなかったかのように、すでに姿を消していた。
「大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
私は無理やり笑顔を作った。顔が引きつりそうだった。
「大丈夫よ。不器用だっただけ。留め金が緩んでいたのね」
彼は一つ一つ、丁寧な手つきでダイヤモンドを集める。立ち上がると、その手で私の顔を包み込んだ。
「手が震えているじゃないか。本当に大丈夫か? 気分が悪いなら帰ろう」
見て。この演技を見て。心配する夫。献身的なパートナー。私を決して傷つけたりしない男。
七年間の演技。七年間の「愛してる」。七年間の嘘。
「いいえ、大丈夫。本当に。少し時間が必要なだけ」
彼は私の顔をじっと見つめ、一瞬、彼には見えているのではないかと思った。私の目の奥で燃え盛る怒りが。私の微笑みが、もはや顔全体には届いていないことが。
でも、彼は気づかない。いつだってそう。
私は深呼吸をして、表情を元に戻した。
「少し空気が吸いたいだけだと思う。家に帰ってもいい?」
車の中で、彼は私の手を握る。親指が手のひらに円を描く。天城区のスカイラインが窓の外を流れていく。
「今夜はずいぶん静かだね。本当に大丈夫?」
「疲れただけよ。長い一日だったから」
彼は私の指の関節にキスをする。その唇が肌に温かい。
「家へ帰ろう。僕がそばにいるから」
その言葉は心安らぐはずだった。私を安心させてくれるはずだった。それなのに、胃がむかむかする。
家に着くと、岡村おばさんが待っていた。何か必要ですかと尋ねる。私は首を横に振った。ただ一人になりたいだけ。
寝室で、真は私を腕の中に引き寄せた。額に、頬に、唇にキスをする。
「こっちへおいで」
暗闇の中で彼の体は温かく、私の体に寄り添う。堅固で、現実のもの。他の誰かと――もっと若くて、もっと刺激的な誰かと――一緒にいた、同じ体。
「すごく愛してるよ、恵理子。わかっているだろう?」
「ええ、わかってる」
彼の呼吸がゆっくりになる。数分もしないうちに、彼は眠りに落ちた。あっさりと。罪悪感も、ためらいもなく。ただ安らかな眠り。
私は暗闇の中で横たわり、天井を見つめていた。無意識に手が、三ヶ月前まで赤ん坊がいたお腹に触れる。彼の子がいた場所に。
三ヶ月前、あなたは泣く私を抱きしめてくれた。『また頑張ろう』と言った。『愛してる』と言った。
三ヶ月前、あなたはもう二十二歳の女と寝ていた。
わかったわ、全部理解した、真。そしてあなたはこれから、私を甘く見ることがどういうことか、思い知ることになるでしょうね。
