第百十四章

男はまだ、私が眠っていないことに気づいていないのだろう。

通話を終えた彼は、私に向かって独り言のように呟いた。

「九条さん、恨まないでくださいよ」

「俺の邪魔をしたあんたが悪いんだ」

そう言いながら、ポケットから何かを取り出し、私の顔に被せようとしてくる。

その瞬間、私はぱちりと目を開けた。

男がびくっと体を震わせる。

彼が事態を呑み込むより早く、私は手にしていた花瓶を躊躇なくその顔面へ叩きつけた。

ガシャンッ!

男は目を剥き、そのままドサリと床に崩れ落ちた。

私は立ち上がり、彼の鼻下へ指を当てる。――まだ息はある。

ただ気絶しているだけのようだ。

床に落ちたハンカチ...

ログインして続きを読む