第75章

和也は珍しく急かすこともなく、私が目を覚ましたのに気づくと、顔を向けて尋ねてきた。

「少しは休めたか?」

車内が暗いせいか、それとも私の気のせいか、その声には微かな甘やかしと優しさが滲んでいるように聞こえた。

一瞬呆然としたが、すぐに我に返る。

和也が私に優しいはずがない。

実家に着いた途端、もう芝居の始まりというわけだ。

藤原家の人間は、揃いも揃って天性の役者である。ビジネスなんかより、演劇の道に進んだほうがよほど大成するだろう。

私はため息をつき、呆れ交じりに言った。

「車を降りてからでも、お芝居には間に合うわよ」

「でも、上着はありがとう」

そう言って、彼にジャケッ...

ログインして続きを読む