第1章

ミラ視点

 最初に感じたのは痛みだった。鈍く脈打つような痛みが頭蓋骨の付け根から背骨へと広がっていく。まぶたが重く、まるで誰かに糊で貼り付けられたかのようだった。ようやく目をこじ開けると、世界の輪郭がぼやけたり、また焦点を結んだりした。

 錆びついた金属の壁。割れた窓からは、弱々しい月明かりが差し込んでいる。モーターオイルと潮水、そしてカビの混じった鼻をつく臭い。

 身じろぎしようとしたが、ごわごわしたロープが手首に食い込み、椅子に後ろ手で縛り付けられていた。焼けるような痛みに顔をしかめる。足も同様で、足首が椅子の脚に固く結ばれている。まるで霧の中を歩くように、ゆっくりと現実が染み込んできた。

 ここはもう、ロッシ・エステートじゃない。

 深呼吸。もう一度。パニックを無理やり押し殺す。考えろ。

 昨夜。私はマルコの大好物だというイタリアンソーセージを買いに、ブルックリンにある二十四時間営業のデリへ向かうため、その男に車を出させた。駐車場。背後に誰かの気配、口を塞ぐ手、化学薬品の臭い。

 そして、この様だ。

 十五年。ロッシ・ファミリーで十五年も過ごしてきて、これが結末だっていうの?

 七歳の頃、ビンセントが私をあの鉄の檻から抱き上げてくれたのを覚えている。彼の声はとても優しかった。「もう安全だよ、お嬢ちゃん」。私は彼を信じた。ようやく自分の居場所を見つけたと信じた。マルコと一緒に育てば、彼がいつだって私を守ってくれると信じていた。

 なんて馬鹿げた冗談だ。

 暗闇のどこかから、足音が響いてくる。揺らめく裸電球の下に、四人の男が姿を現した。先頭に立つ男は唇にタバコをぶらさげ、ねめつけるような視線を私に送っている。

 見覚えがある。トニー。ヴァレンティノの始末屋の一人だ。

「よう、お目覚めか」男はタバコを長く吸い込み、煙が歪んだ笑みと共に立ち上った。「ロッシ・ファミリーのささやかな慈善事業さんよ」

 彼は私の前にしゃがみ込む。息にかかるタバコの臭いが届くほど近い。その指が私の顎を掴み、無理やり顔を上げさせた。

「面白い話をしてやろうか? お前の大事なマルコ様はな、今頃どっかの金髪女のケツに夢中で、お前のことなんかこれっぽっちも気にしてねえよ」

 私は顔を背け、奥歯を噛みしめる。震えるな。こいつを満足させてやるものか。

 トニーは立ち上がると、スマホを取り出した。「面白くしてやろうぜ。お前の彼氏に電話する時間だ」

 心臓が胃の腑に落ちた。

 部下の一人がスマホを設置し、カメラを私に向ける。もう一人がきついLEDライトを点けると、私は目を細めた。静寂を切り裂いて、呼び出し音が鳴り響く。

 一回。二回。三回。

 呼吸が速くなる。爪が掌に食い込んでいく。

 彼は出る。出なきゃおかしい。私たちは一緒に育ったんだ。いつだって守るって、約束してくれた。

 画面が明滅し、映像が映し出された。

 カメラに映るのは、贅沢の限りを尽くしたVIPラウンジ。革張りのソファ、クリスタルのデキャンタ、低く流れるジャズ。マルコはソファにふんぞり返り、シャツの襟を開け、酒で頬を赤らめている。赤いスリップドレスを着た金髪の女が彼の膝に乗り、その唇にシャンパングラスを押し当てていた。

 背景で女たちの嬌声が響く。

 体が硬直する。血が氷に変わっていく。

 違う。こんなの間違ってる。ありえない。

「ロッシさん」トニーがカメラに向かって話しかける。私の顎の下を銃口でつつきながら。「あんたの所有物を預かってる。五百万ドルとブルックリンのカジノ二つの経営権。さもなきゃ、この可愛い顔がもう可愛くなくなっちまうぜ」

 マルコは画面に目を細め、鬱陶しそうに手を振った。「なんだって? こっちは取り込み中なんだよ」

 金髪女がくすくす笑い、彼の首筋にキスを落としていく。「マルコ、誰なの? イカれた元カノ?」

 彼の名前を呼ぼうと口を開いたが、声が出なかった。喉の奥で音が死ぬ。

 トニーが私の顔にスマホを近づける。「ミラ・ソーヤーだ。あんたのビンセント叔父さんが拾ってきた養女。十五年間、迷子の犬みたいにあんたの後をついて回ってた女だよ」

 マルコは、ようやく画面に焦点を合わせた。冷たい笑みがその顔に広がる。「ああ。あいつか」

 彼はシャンパンを一口飲み、侮蔑に満ちた目で言った。

「そいつはくれてやる。哀れな子犬に付きまとわれるのはごめんだって、ようやく学習するかもしれねえな」

 金髪女が笑う。「もう、あなたって本当に悪い人! そういうところ大好きよ」

 マルコはカメラに向かって億劫そうに手を振った。「みっともない真似はやめろって伝えとけ。あいつはただの叔父さんの慈善事業のおまけだ。本当の家族じゃねえ。俺の問題じゃない」

 彼は背をもたせ、金髪女の指がその髪に絡みつく。「それからトニー、 ヴァレンティノに伝えろ。もしあのカジノが欲しいなら、男らしく俺のところへ直接話をしに来いってな。こんなくだらないことで俺の時間を無駄にするな」

 画面が真っ暗になった。

 沈黙が、物理的な重みとなってのしかかる。聞こえるのは自分の心臓の音だけ。先ほどより遅く、重い。まるで、動き続けるのに必死になっているかのようだ。

 慈善事業のおまけ。本当の家族じゃない。哀れな子犬。

 一つ一つの言葉が、鈍いナイフとなって私の胸を切り刻んでいく。十五年間が目の前を駆け巡る。十二歳のマルコが、私の手を握って言った。「俺がいつだって守ってやる」。十六歳の時、あのプラチナのネックレスをくれた。「大人になったら、指輪をやるよ」。二十一歳の時、朝の三時に酔って電話してきた。「俺のことを本当に分かってくれるのは、ミラ、お前だけだ」

 すべて嘘。一言一句、すべて。

 涙が頬を伝い落ちる。嗚咽も、絶叫もない。ただ静かで、終わりのない涙。

 トニーはスマホを部屋の向こうへ投げつけた。「クソッ! あのガキ、本当に切りやがった!」

 部下の一人が不安そうに身じろぎする。「ボス、どうします?」

 トニーの視線が私に戻ってくる。暗く、飢えた目だ。「金にならねえなら……」彼の笑みが凶暴に変わる。「少なくとも、いい慰みものにはなるだろ」

 血の気が引く。アドレナリンが全身に溢れ出し、打ち砕かれた心を溺れさせていく。

「お前ら、どうやらタダのおもちゃが手に入ったみてえだな。ビンセントの慈善事業のおまけなら、感謝の仕方ってもんを知ってるよな?」

 二人がにやつきながら近づいてくる。「今夜はようやく楽しめるぜ」

 いや。いやいやいやいや、いやだ。

 こんなのは嫌だ。七歳で誘拐されて生き延びたのは、こんな死に方をするためじゃない。間違った相手を愛することに十五年も無駄にしたのは、ここで終わるためじゃない。

 私はまだ、十分に生きていない。十五年も間違った相手を愛して無駄にしたけれど、まだ終わってなんかいない。終わってたまるか。

 七歳。鉄の檻。暗闇。あの時も死ぬと思った。でも、ビンセントが助けてくれた。

 一度地獄を生き延びたんだ。もう一度だってできる。

 男の一人が私のシャツに手を伸ばす。私は前へ飛びかかり、その手に歯を食い込ませた。鉄の味がするまで、強く噛みしめる。

「クソッ! この女、噛みつきやがった!」

 男の拳が私の顔面にめり込む。頭が横に振られ、口の中に血が広がる。

 トニーが歩み寄り、しゃがみ込んだ。銃口がこめかみに押し当てられる。肌に冷たい金属。

「まだ抵抗する元気があるとはな。可愛いじゃねえか」その声は、どこか楽しんでいるようだった。「分かりやすく言ってやる。いい子にして黙っているか、それとも俺たちがお前にとんでもなく、とんでもなく痛い思いをさせてやるか。どっちか選べ」

 私は頭を上げ、彼の目を見据える。切れた唇から血が滴っているが、視線は逸らさない。

「どうせ殺すつもりなら、さっさとやって。命乞いなんてしない」

 マルコが私に一つだけ教えてくれたこと。捕食者の前では決して弱みを見せるな。皮肉なことに、彼自身が最大の捕食者になってしまったけれど。

 トニーは長い間私をじっと見つめ、それから笑った。「度胸があるな。気に入ったぜ。ロッシの奴が自分の持ってたものの価値を分かってなかったのが残念だ」

 彼は立ち上がり、ベルトのバックルを外す。「忘れろ。死体はもがかねえ。抵抗する方が面白い」

 私は目を閉じる。背後で両手をねじると、ロープが皮膚を引き裂いた。左手首の傷跡が、まるで負ったばかりのように焼ける。

 ここで死なない。こんな風には。こんな風には!

 ドォォォン。

 爆発音が夜を引き裂いた。入り口で火の手が上がり、倉庫全体を揺るがす。

 煙が流れ込んでくる。男たちが慌てて武器に手を伸ばす。耳鳴りがして、他のすべての音をかき消した。

「なんだってんだ! 誰だ――」

 バン。バン。バン。

 三発の銃声。クリーンで、正確無比。

 最初の男が眉間に穴を開けて倒れる。二人目は胸を押さえ、錆びたドラム缶にもたれかかって崩れ落ちた。三人目は逃げようとした。弾丸がその背中を捉える。

 硝煙と血の匂いが空気に満ちる。煙と吹き飛んだ戸口の向こうから、長身の人影が炎の光の中へ足を踏み入れた。一歩ごとに、ガラスと瓦礫を踏み砕く音がする。

 黒いコート。まだ煙を上げている銃。銃口からは煙が立ち昇っている。

 涙と血で顔は見えない。炎を背にしたシルエットだけ。だが、胸の何かが、ほんの少しだけ、緩んだ。

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