第4章
葬儀が終わり、人影が消えた教会の階段は寒々としていた。私は小さな木箱を抱きしめる。右肩の傷が裂けるように痛むが、決して手を緩めることはできなかった。
立ち去ろうとしたその時、背後に不意に友梨奈が現れた。
「気をつけて、転ばないようにね――」
彼女は囁きながら、指先で箱の蓋を軽く弾いた。
箱が手から滑り落ち、石段に叩きつけられる。蓋が弾け飛び、白い遺灰が地面にぶちまけられた。
「あら」
友梨奈は驚いたふりをして後ずさりながら、そのピンヒールの爪先で灰を踏みつける。
「なんて不注意なの」
そう言いながら、彼女は踵で娘の遺灰を――ゆっくりと、執拗に踏みにじった。
そして私の耳元に唇を寄せた。
「あの子の胸が切り開かれた時、心臓がすごく速く動いてたわ……見ていて痛々しかったくらい」
私は石のように固まった。
「彼に感謝すべきよ」笑いを含んだ声が続く。
「少なくとも、あなたの娘の心臓を選んで、私の大事な宝物を救ってくれたんだもの。そうでなきゃ、あなたには利用価値すらなかったわ」
私は猛然と振り返り、渾身の力で彼女の頬を張った。
「あの子に触れるな!」
私の叫びが、何もない教会前に響き渡る。
友梨奈はよろめき、そのまま階段にへたり込むと、顔を覆って泣き出した。
「ただ手伝おうとしただけなのに……」嗚咽交じりに彼女は言う。
「どうしてぶつの?」
まだ近くにいた参列者たちが集まり、指をさして囁き合う。
「見ろよ、森田の奥さん、錯乱して黒崎家の令嬢を叩いたぞ」
「気が触れたんじゃないか」
その時、孝平が駆けつけた。
彼はまず座り込んだ友梨奈を一瞥し、それから惨状に目を向けた――風に舞い、靴底で石の隙間に押し込まれた遺灰を。
「孝平」友梨奈は泣きながら彼にすがりつく。
「私、遺灰を拾ってあげようとしただけなの。それなのに急に殴られて、遺灰で私と佳弥を呪うって……」
孝平は彼女を抱き寄せ、氷のような目で私を見上げた。
「里奈」怒りを押し殺した低い声。
「何の真似だ?」
私は階段に残る灰色の染みと、くっきりとした靴跡を指差す。
「孝平、あれはあなたの娘よ。あなたが守ると誓った娘なのよ」
彼は数秒、沈黙した。
そこで私は、衆人環視の中で問いを投げた。
「劇場で発砲したのは誰?」
大きな声ではなかったが、周囲に聞かせるには十分だった。
「一体誰が、リリを殺したの?」
孝平の顔色が変わる。
「あれは事故だ」彼は声を張り上げ、全員に聞こえるように言った。
「精神に異常をきたした過激派の仕業だ。里奈、君はショックのあまり妄言を吐いている」
彼は周囲の客に向け、疲れたような謝罪の笑みを浮かべる。
「妻は情緒不安定なのです。どうかご理解ください」
私は彼を見つめた。七年も連れ添ったこの男が、急に滑稽に見えた。
「精神異常?」私は言葉を繰り返す。
「じゃあ、どうしてその犯人は事前に電源を切れたの? どうして監視カメラをすべて回避できたの? どうして――」
「いい加減にしろ!」
孝平が鋭く遮った。
「今の自分がどう見えているかわかっているのか? 教会の前で喚き散らし、黒崎家の令嬢を侮辱するとは。跪いて、友梨奈に謝れ」
私は動かない。
「跪けと言っているんだ」
彼が歩み寄り、私の肩に手を置く――負傷した右肩に。そして強く押し下げた。
激痛に膝が折れそうになるが、私は歯を食いしばって耐えた。
「嫌よ」私は言った。
「なら、手伝ってやる」
彼の手の力が強まり、爪が傷口に食い込む。
目の前が真っ暗になるほどの痛みに襲われ、ついに膝が石段に強く打ち付けられた。
辺りは静まり返っていた。森田家の夫人が愛人の前に跪かされる姿を、誰もが見ていた。
一段高い場所に立つ友梨奈は、私を見下ろし、口の端に微かな笑みを浮かべた。勝利の笑みだ。
「娘さんを亡くした辛さはわかるわ」彼女は優しげな声で手を差し伸べる。
「あなたを責めたりしない」
私はその手を振り払った。
孝平は最後に私を一瞥した。その目には焦燥、警告、失望――あらゆる感情があったが、憐憫だけはなかった。そして彼は友梨奈を抱いて去っていった。
人々は徐々に散っていった。
私は石段に跪いたまま、散らばった遺灰を見つめ、しばらくしてようやく我に返った。そして少しずつかき集め始めた。石の隙間に入り込んだ灰色の粉末を指で掻き出し、箱に戻していく。
風が強く、いくつかが吹き飛ばされる。私は風を追って数歩走り、またよろめきながら戻ることを繰り返した。
夜、孝平から電話があった。
「今日のことは、お前のためを思ってやったんだ」彼はまたあの優しい口調に戻っていた。
「黒崎家は今、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。敵に回すわけにはいかない」
私は無言だった。
「遺灰は……とりあえずそっちに置いておいてくれ」彼は言葉を切った。
「風水師に見てもらったんだが、屋敷に新設する道路の路盤下に埋めれば、リリは永遠に家族のそばにいられるし、家業を守ってくれるそうだ。あの子にとっても、それが一番の安らぎだろう」
私はまだ何も言わない。
「墓地はまた手配する。一番いい場所を用意するから」彼は子供をあやすように続けた。
「帰ったらゆっくり話そう。埋め合わせはする」
「わかったわ」私はようやく口を開いた。乾いた声だった。
彼は安堵したようだった。
「わかってくれてありがとう。君はずっと物分かりが良くて、リリのように聞き分けのいい子だ」
電話が切れた。
私は携帯を置き、書斎に入ってパソコンを開く。プリンターが唸りを上げ、書類を次々と吐き出した。
『家族関係断絶合意書』。
マフィアの家系における離婚は、ただの離縁ではない。宣戦布告であり、完全なる決別だ。
私は署名欄に自分の名前を書き込む。浜山里奈、と。
それから荷物をまとめ始めた。結婚式の写真、記念日のプレゼント、彼が贈った宝石――すべて暖炉に放り込む。炎が燃え上がり、七年間の結婚生活の証拠を飲み込んでいく。
私が持ち出したのは、リリの遺品だけ。バイオリン、楽譜、あの子が描いた拙い絵。
そして、蓋をし直した骨箱。
空港のVIPラウンジで、テレビが生中継を流していた。
画面の中、孝平は病院の病室でカメラに向かって微笑んでいる。傍らには友梨奈が立ち、背景には『黒崎家令嬢、心臓移植手術成功 経過良好』のテロップ。
「ドナー家族の無私無欲な貢献に感謝します」孝平はマイクに向かって語る。
「このプロジェクトは、より多くの子供たちに新たな命を……」
私はリリの骨箱を抱いたまま、しばらくそれを見つめ、やがて携帯を取り出してある番号にかけた。
「時が来たわ」私は言った。
通話を切って顔を上げる。
テレビ画面の中で、病室のドアが突然押し開けられた。若い医師が飛び込んでくる。顔面蒼白で、手には書類を握りしめていた。
「佳弥ちゃんに心臓病なんてありませんでした!」
カメラが激しく揺れ、中継信号が途切れる。画面はニューススタジオに切り替わり、キャスターが呆然とした顔を晒していた。
