第2章

個室は一瞬にして、死んだような静寂に包まれた。

全員が目を見開いて私を凝視し、空気はコンクリートのように重く張り詰めていた。自分が何を口走ったのか、気づいた。だが、言葉はすでに放たれてしまっていた。もう取り返しはつかない。

薄暗い照明の下で、颯真の顔が青ざめていく。その瞳は危険な怒りに燃えていた。彼はゆっくりと立ち上がり、私の方へ歩み寄ってくる。万力で締め付けられるように、一歩ごとに心臓が押し潰されていく。

「何だと?」野獣の唸り声のような、低い声だった。

亮介と七割方似ている颯真の顔を見ていると、突然、激しい吐き気に襲われた。彼への嫌悪感ではない。自分自身に対する嫌悪感だ。

私は彼を利用していた。亮介に似たその顔で、彼への思慕を紛らわせるために。そして彼も私を利用していた。亮介への私の想いを利用して、己の征服欲を満たすために。

このゲームに勝者などいない。いるのは、同じくらい哀れな二人の人間だけだ。

「出て、待ってろ!」颯真が怒鳴りつけ、その咆哮に部屋のグラスが震えた。

紅潮した彼の顔を、その怒りを見つめながら、私の心に残っていた最後の幻想が粉々に砕け散った。

彼は亮介じゃない、亮介になれるはずがない。

そして亮介は……もう二度と帰ってこない。

私は身を翻して個室を出た。廊下の照明は薄暗く、壁に寄りかかると、足の力が抜けそうになった。

スマホを取り出し、三年間返信のないトーク画面を開いた。そこには亮介に送った無数のメッセージが並び、すべてが虚空に消えていた。

それでも、私はまたキーを叩かずにはいられなかった。

「亮介、もしこのメッセージがまだ届いているなら……教えて、私はどうしたらいい? 自分を見失いそう。あなたに会いたくて狂いそうだよ」

送信。

いつも通り、メッセージは送信済みと表示されたが、返信が来ることは、決してない。

私は目を閉じ、涙が落ちるのに任せた。

ロビーの警備員たちが、同情と好奇の入り混じった目で私を見ていた。個室での出来事が、すぐに一族全体に知れ渡るだろうことはわかっていた。

深夜の街は、ナイトクラブから溢れ出す酩酊と罪を飲み込む、大きく開いた顎のようだった。

店の入り口に佇むと、冷たい風が骨身に染みた。颯真の「出て、待ってろ」という声が、まだ耳の奥で響いている。三年経って、私はこんなところにまで落ちぶれたのだ。身代わりとしてしか見ていない男から、施しを待つために路上に突っ立っている。

ネオンの光が明滅し、私の影がアスファルトの上で歪んで伸びた。

案の定、誰にでも敗者の匂いはわかるらしい。

通りの向かいのバーから、酔っ払ったならず者が三人、千鳥足で出てきた。彼らの視線が、私に突き刺さる。リーダー格の男は脂ぎった無精髭を生やし、唇に下卑た笑みを貼り付けていた。

「おやおや、誰かと思えば? 若頭の姫様も、今じゃこんなに落ちぶれたのか? 一人で路上に立って客待ちかい?」

全身の血が瞬時に凍りついた。

「黙って、消えな。後悔するわよ」私の声は冬のように低く、右手は無意識に腰へと伸びていた。

「ハハッ! 聞いたかよ! このアマ、俺たちを脅してやがるぜ! 亮介は三年前に死んだんだ。今さらお前が何様のつもりだ?」

三人目のデブが背後に回り込む。三人は三角形を描くようにして、私を囲んだ。通りは不気味なほど静まり返り、遠くのナイトクラブの音楽だけが微かに聞こえてくる。

「もう誰もあんたを守ってくれねえよ、お姫様。俺たちと一杯どうだ?」リーダー格の男が汚れた手を伸ばしてくる。

一歩後ずさると、背中が壁にぶつかった。あの颯真め、私をここで見殺しにする気か。

その、時だった。

一台の黒いキャデラック・エスカレードが、音もなく歩道脇に滑り込んできた。

その車体は街灯の光を反射し、获物を狙う黒豹のようだった。エンジン音も、音楽も、アスファルトを擦るタイヤの音さえしない。

ならず者たちの動きが止まった。

車のドアが開く。

イタリア製の手作りの革靴が、アスファルトに踏み出された。

続いて、長身の影が車内から現れた。

私の世界が、止まった。うそ.......

氷室亮介。

左の耳から口元にかけて、生々しい傷跡が走っていた。仕立ての良いスーツは非の打ちどころがない。だがその瞳、ああ、その瞳はシベリアの冬よりも冷たかった。

三年。丸三年だ。

私は彼が白峰島の廃墟で灰になり、散ってしまったのだと思っていた。

もう二度と会えないと、名前を呼んでもらえないと、その温もりに触れられないと思っていた。

なのに、彼はここにいた。私の目の前に、生きて、実在して立っていた。

心臓が激しく脈打ち、血が沸騰し、世界がぐるぐると回る。彼に駆け寄って、抱きしめて、これが幻ではないと確かめたかった。泣きたかった。笑いたかった。この三年、どこにいたのかと問い詰めたかった。どれほど会いたかったか伝えたかった。

だが、彼が私を見た瞬間、私の世界は再び崩壊した。

その瞳には……三年前の温かさはない。私が泣いていると、優しく髪を撫でてくれた男の眼差しではない。それは見知らぬ他人に向ける無関心、道端の通行人に向けられる無感情、死よりも冷たい拒絶だった。

抱擁も、慰めも、驚きの色さえもない。

まるで、私が彼の行方知れずの被後見人でもなく、かつて彼が慈しんだ少女でもなく、彼の「死」の後に泣き崩れた玲華でもないかのように。

まるで、私が無であるかのように。

颯真に屈辱を味わわされた時よりも一万倍も痛く、心臓が少しずつ砕けていくのを感じた。

彼はただ一言、こう言った。

「帰るぞ」

その声には一切の反論を許さない、最後の審判のような響きがあった。

三人のならず者たちは瞬時に石と化した。無精髭の顔は死体よりも白くなり、痩せこけた男の足は震え始め、デブはそのまま地面に崩れ落ちた。

黒服の男が二人、車の反対側から影のように静かに現れた。彼らは銃も抜かず、ナイフも抜かず、その三人のクズに触れさえしなかった――ただそこに立っているだけで、潮のように殺気が溢れ出した。

三人のならず者は這うように立ち上がり、闇の中へと逃げ去った。

亮介は彼らに一瞥もくれなかった。

「玲華様」。別の平凡なセダンから運転手が降り立ち、私のために丁寧にドアを開けた。

私は機械的に車に乗り込み、バックミラー越しに亮介が自身の高級車に乗り込むのを見た。彼は私を同乗させなかった。

まるで、私が赤の他人であるかのように。

エンジンが始動し、二台の車はゆっくりと動き出した。後部座席の窓から、ナイトクラブのドアが勢いよく開き、颯真が狂人のように飛び出してくるのが見えた。取り巻きたちが後に続く。

ネオンの下、颯真の顔は死人のように青ざめ、口は卵が入りそうなほど大きく開いていた。彼は雷に打たれたように、亮介の車のテールランプを凝視していた。

「そんなありえない……」彼の声が夜風に震えた。「あいつは死んだ……死んだはずだ!」

友人たちは顔を見合わせ、何人かは後ずさりした。誰もがその伝説を知っていた。氷室亮介が死なぬ限り、世に安寧はない、と。

「玲華様、若頭は本当に戻ってこられました」運転手が畏怖と恐怖に満ちた声で、そっと言った。

私は目を閉じ、涙が静かに頬を伝った。

そう、彼は帰ってきた。

私が十五年間愛し続けた男が、帰ってきた。

なのに、彼は私を完全な他人を見るような目で見た。

外の夜はインクのように黒く、私の心は粉々に砕け散っていた。

どうして? 亮介、どうして私にそんな仕打ちをするの?

三年前の白峰島での爆発事故を、彼が死亡宣告された夜を、彼の写真を抱きしめては意識を失うまで泣き明かした深い夜を、思い出す。

そして今、彼は生きて戻ってきたというのに、私は彼の心を失ってしまったように感じた。

車列はベネデッティ家の屋敷へと向かう。闇に沈むその邸宅は、眠れる城のようだ。だが今夜、死神が帰還したのだ。

バックミラーの中では、颯真がまだ雷に打たれた像のように、ナイトクラブの入り口に立ち尽くしていた。

私はふと悟った。身代わりごっこは、終わったのだ。

亮介の今の冷たさをどれだけ憎んでも、心がどれだけ砕け散っても、一つの真実は決して変わらない。私は颯真を愛したことなど一度もない。私が愛したのは、いつだって亮介ただ一人だった。

たとえ彼が今、私を他人を見るような目で見ても、たとえ彼の帰還が死の冷気を纏っていても、たとえこの三年間で彼が何を経験したのか、なぜその顎に恐ろしい傷跡があるのか、私にはわからなくても。

車が最後の角を曲がり、屋敷の鉄門が前方にゆっくりと開いていく。

私は深く息を吸い込み、頬の涙を拭った。

彼の冷たさには、何か別の理由があるのかもしれない。私にはまだ、すべてを説明するチャンスがあるのかもしれない。

だけど、何があっても、彼に伝えなければならない。

亮介、あなたが帰ってくるのを、私はいつだって待っていた、と。

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