チャプター 2.

ケイデン・ミラー視点

何もかもが、あまりにも急だった。ついさっきまで俺と両親は、父が出席しなければならなかった商談のディナーを終え、ホテルへ戻る途中だった。それが次の瞬間、歩道でよろめき、今にも崩れ落ちそうになっている少女が目に飛び込んできた。

運転手が車を止め、俺と母さんと父さんは一斉に外へ飛び出した。俺は少女が地面に倒れ込む直前で受け止め、そのまま彼女の目を閉じさせる。

「なんてこと……この子、どうしたの?」

母さんは口元を両手で覆い、涙がこぼれそうな声で言った。

腕の中の小さな身体をそっと向き直すと、ひどく殴られた痕がいくつもあった。父さんが脈を確かめる。

「今すぐ病院に連れていく必要がある」

不安を隠せない声だった。

父さんが優しく彼女のリュックを外し、俺は少女を慎重に抱え上げ、腕の中に横たえるように抱いた。足早に車へ戻り、乗り込むと、彼女を膝の上に寝かせた。かわいそうに、皮と骨だけみたいだ。病的に痩せている。

母さんは身分証がないかと彼女のポケットを探り、父さんはリュックの中を確認した。父さんが財布を見つけ、そこから身分証を取り出す。

「よし、見つかった。親御さんに連絡が取れるか当たってみる」

そう言ってスマートフォンを操作し始めた。

「待って、やめて!」

俺はほとんど悲鳴みたいに言ってしまった。母さんも父さんも驚いた顔で俺を見る。

「どうしてだ、ケイデン?」

父さんが片眉を上げて問う。

「もし、やったのがその親だったら?」

俺は膝の上の少女を見下ろした。彼女の頭は俺の肩にもたれかかっている。

こんな扱いをする相手のところへ、彼女を戻したくない。顔を上げると、母さんも父さんも、どこか申し訳なさそうな目をしていた。

「……なに?」

俺は訳が分からず聞き返した。

「お前が他人のことを気にするなんて、珍しいな」

父さんは口元に小さな笑みを浮かべて言った。俺は一瞬目を閉じ、内心で大きくうんざりした。

そうしてほどなく、病院に着いた。父さんが医師に声をかけ、俺たちがこの子を見つけた経緯と、倒れたことを説明する。別の医師たちが来て、俺の腕の中から少女を引き取ろうとしたが、俺は手放したくなかった。

「お父さん、診察が必要です。こちらにお渡しください」

医師は心配そうに少女を見下ろしながら言った。俺も同じように彼女を見た。理由は分からない。ただ、離したくなかった。

「ケイデン。怪我を診てもらえ。俺たちはここで待つ。詳しいことが分かるまでな」

父さんが俺の肩に手を置き、軽く握った。俺はうなずき、そっと少女を医師に渡した。

医師は彼女をベッドに寝かせると、そのまま廊下を走り出した。いくつかの扉の向こうへ消えていく。俺は、彼女が運び込まれた扉をただ見つめたまま立ち尽くしていた。

「さあ、ケイデン。座って待ちましょう。警察が向かってるの。私たちにも話を聞きたいって」

母さんが俺の肩を抱き、椅子のあるほうへ導いた。

「……名前、分かったの?」

俺は床を見たまま、小さく尋ねた。

「ああ。ケイデン、この子の名前はタリア・コリンズだ」

父さんは静かに言い、俺の片側に座った。反対側には母さんが座る。

俺はただそこに座り、目の前の床と、タリアが連れて行かれた扉のあいだで視線を行ったり来たりさせていた。タリア……なんて甘い響きなんだ。あの優しい子に、これ以上ないほど似合っている。

「彼女、十七歳だって」父が言った。

「えっ、十七? その歳にしてはずいぶん小柄よ」母が息をのんで、口元を押さえた。

しばらくして、警察官が二人、病院の中へ入ってきた。受付のナースがこちらを指さすと、二人はまっすぐ俺たちのところへ歩いてくる。

「その少女を運び込んだのは、あなた方ですか」片方がきつい声で尋ねた。

俺と母と父は立ち上がった。父が鋭い目で睨み返すと、警察官たちは一瞬たじろいだように見えた。

「そうだ。彼女のリュックの中から身分証も見つかった」父はそう言って、身分証を警察官の一人に渡した。

受け取った警察官は少し離れ、どこかへ電話をかけはじめた。こちらに残ったもう一人が言う。

「何があったのか、説明していただけますか」

父と母が、タリアをどうやって見つけたのかを順に話した。

俺は扉を見つめたまま、医者から何か知らせが来るのを待っていた。けれど両親と警察官の会話は、耳に入ってくる。電話をしていた警察官が戻ってきて、軽く咳払いをした。

「ご両親に連絡しなかったのは正解でした。近隣から苦情が多いんです。いつも怒鳴り声がして、家の中で何かが叩き壊されるような音もする、と」

「まあ……」母はまた口元を押さえた。「私たち、タリアと話せるまでここにいます。でも失礼を承知でお願いしてもいいですか。あなた方もここにいてくれませんか? 少しでも、あの子の助けになるかもしれないから」警察官の一人が言った。

「もちろん」俺は両親に確認もせずに答えていた。

警察官たちは両親の返事を待つように視線を向ける。

「ええ、もちろんよ。今、ここ以外にいたい場所なんてないもの」母はそう言って、俺の肩に手を置いた。

俺たちは再び腰を下ろし、警察官たちも座った。あとは医者の処置が終わるのを待つだけだ。

それにしても、どうして誰かが、あんなに優しくて、見た目だって綺麗な子に、こんなことをできるんだ。

俺だって聖人じゃない。殴り倒したこともあるし、殺したことだってある。家業みたいなものだからな。でも、あの子がこんな目に遭うほどの何かをしたなんて、どうしても信じられない。

しばらくして医者が戻ってきて、俺たちの前まで歩み寄った。

「タリアさんの検査は終わりました。幸い、手術は必要ありません。ただ、肋骨が三本骨折しています。左腕に骨のひび、右の大腿骨にもひびがあります。全身にひどい打撲があり、脳震盪も起こしています。それから……体つきを見る限り、長いあいだ栄養を与えられていなかったようです」医者が説明する。

「かわいそうに……」母は胸が潰れそうな声で言った。俺は言葉も出ず、ただ立ち尽くしていた。

「上半身には古い傷痕も多い。私の見立てでは、年単位で虐待を受けていたのでしょう」医者は続けた。

「しばらくは経過観察で入院してもらいます。状態が少し落ち着くまで」

すると警察官の一人が医者に言った。

「採血は可能ですか。家が原因なら、別の親族に引き取ってもらえるかもしれない。DNA鑑定をして、他に身寄りがあるか確認したいんです」

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