第1章
死の感触が、まだ全身にまとわりついていた。
喉の奥で押し殺した悲鳴と共に、私は弾かれたように目を覚ました。まるで溺れかけた者のように、貪るように空気を吸い込む。心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動し、瞬く間に全身から冷や汗が噴き出した。
私は死んだのか? それとも、まだ生きているのか?
私は狂ったように額をまさぐり、そこにあるはずの弾痕を探した。リカルドの銃が刻み込んだ、あの痕跡を!
前世の夫。サントロ一族の跡取り。かつてはあんなにも優しく「愛している」と囁きながら、最後には冷徹なまでの正確さで引き金を引いた、あの男。
だが、指先に触れたのは無傷の肌だけだった。温かい、生きた肌の感触。
「そんな、嘘よ、嘘……」
震えながら上体を起こし、両手で必死に自身の体を確かめる。
「血はどこ? 傷は? 私はあんなにも鮮明に覚えているというのに……」
鼓膜にはまだ銃声が響いている。命がこぼれ落ちていくあの圧倒的な絶望感は、つい昨日のことのように生々しい。口の中に広がる鉄錆のような血の味さえ思い出せる。意識が遠のく瞬間の、あの凍てつくような虚無感さえも。
だというのに、なぜ私は思考できる? なぜ鼓動を感じるの?
私は何度も瞬きをし、涙が滲むほど強く自分の腕をつねった。その痛みはあまりに現実的で、泣き出したくなるほどだった。
「生きてる……私は、生きている!」
でも、どうして? あの銃声を、リカルドの無感情な瞳を、心臓が止まる感覚を、私ははっきりと覚えているのに……。
よろめきながら鏡の前へ歩み寄ると、そこには蒼白で、怯え、混乱した自分が映し出されていた。だが、この顔は……この幼い顔は……。
「二十二歳……?」
震える声で呟く。
「でも、私は二十五歳だったはず……私はもう……」
その時、ナイトテーブルの上のスマートフォンが光った。2019年10月15日、午後七時半。
その日付を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃が走った。
三年前。
婚約披露宴の夜。
すべてが崩れ落ち始めた、あの夜だ。
私はその場に泣き崩れ、頭を抱えて激しく身を震わせた。死に戻り? そんな馬鹿げた話があるはずがない! だが、それ以外に説明がつかなかった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
ドアの外から、メイドの心配そうな声が聞こえた。
「コルレオーネ一様が階下でお待ちです。宴は八時に始まりますので」
全身の血が凍りついた。思い出した。今夜、お父様は私をサントロ家の跡取りに紹介するのだ。やがて私を殺すことになる、あの男に。
「……すぐに行くわ」
私は辛うじて声を絞り出した。自分でも聞き分けられないほど、掠れた声だった。
「ドレス選びをお手伝いしましょうか? 今夜はコルレオーネ一族にとって、非常に重要な夜ですから」
重要? 笑わせないで。今夜は私の人生における悲劇の序章、死の淵へと続く最初の一歩だというのに。
足音が遠ざかると、私は化粧台の椅子に力なく沈み込んだ。
これが夢なのか、幻覚なのか、それとも神の慈悲なのかは分からない。だが、決してあの過ちは繰り返さない。二度と、あの冷酷な殺人鬼に心を許したりはしない。
すべてを変えなければ。
けれどまずは、今夜を生き延びなくては。
深呼吸をして、無理やり心を落ち着かせる。この夜に戻ってきた以上、向き合うしかない。だが今度は、無垢な子羊のように屠殺場に引かれていくつもりはない。
「お嬢様、コルレオーネ一様が再度お呼びです」
メイドが明らかに焦った様子で声をかけてきた。
私は鏡の中の自分を見つめ、素早く表情を整えた。今夜は演じきるのだ。誰もが信じて疑わない、従順なコルレオーネ一の愛娘を。
三十分後、コルレオーネ一邸の大広間は煌々とした光に包まれていた。
クリスタルのシャンデリアが温かな黄金色の光を投げかけ、弦楽四重奏団が優雅なワルツを奏でている。着飾った招待客たちはシャンパンを片手に、上品な会話に花を咲かせていた。すべてが前世の記憶通りだった。完璧で、そして徹底的に虚偽に満ちていた。
「ビアンカ、こっちへ来なさい。紹介したい人がいるんだ」
お父様は商人特有の張り付けたような笑みを浮かべていたが、私の肩に置かれた手には、拒絶を許さない絶対的な威圧感が込められていた。私は人波の中心へと導かれた。そこには、一人の長身の影が待ち構えていた。
黒のオーダーメイドスーツ。完璧なプロポーション。彫刻のように整った顔立ち。その男がゆっくりと振り返った瞬間、私の呼吸は止まりかけた。
リカルド・サントロ。
二十八歳。男としての全盛期にあり、生まれながらの支配者としてのオーラと、危険なカリスマ性を纏っている。その瞳が私を捉えた瞬間、前世での死の記憶が津波のように押し寄せた――。
「裏切ったな、ビアンカ」
銃口の冷たさ。
炸裂音。
溢れ出す鮮血。
「いやっ!」
私は反射的に後ずさり、顔色は瞬時に蒼白になった。
くそっ! 自制できると思っていたのに、彼を前にした途端、すべてが吹き飛んでしまった!
ダンスホールが静まり返り、すべての視線が私に集まる。お父様の表情が瞬時に曇り、その瞳に警告の光が宿った。
「コルレオーネ一嬢?」
リカルドが眉を顰める。低く、磁力のある声だった。
「気分でも優れないのかな?」
彼は一歩踏み出し、私を支えようと手を伸ばしてきた。私の命を奪ったのと同じ手が、そこにある。私は悲鳴を上げそうになるのを堪え、激しく身を震わせた。
「急に、吐き気が……。お手洗いに失礼します」
私は早口でまくし立てた。声の震えが隠せない。
「騒がせて申し訳ありません」
誰の返事も待たず、私は背を向け、なりふり構わずその場から逃げ出した。背後の囁き声や、お父様の怒号も無視して。
会場の外の廊下は薄暗く、冷え冷えとしていた。壁のブラケットライトが頼りない光を落としているだけだ。私は壁に寄りかかり、荒い息をつきながら、心臓のパニックを鎮めようと必死だった。
やった。あの男から逃げた。前世の「一目惚れ」という罠から逃げ延びたのだ。
彼を避け続け、この政略結婚を拒み続ければ、あるいは運命を変えられるかもしれない。
その時、背後で柔らかな足音が響いた。
心臓が口から飛び出しそうになりながら振り返る。廊下の向こう端に、幽霊のようにリカルドの姿があった。その長身のシルエットは、闇の中で一際恐ろしく見えた。
「なぜ、ついて来たのですか?」
後ずさりながら問う。声に滲む恐怖は隠しようもなかった。
「会場での君の反応が……奇妙だったからだ」
リカルドはゆっくりと言葉を紡ぎながら近づいてくる。その瞳は底なしの渦のように深かった。
一歩近づかれるたびに、心臓が早鐘を打つ。私は冷たい壁に背中を押し付け、必死に平静を装った。
「ただ気分が悪いだけです。それ以上の意味はありません」
「そうかな?」
彼は一メートルの距離で立ち止まり、わずかに小首を傾げて私を射抜くように見つめた。
「だが、君の反応は……ある感覚を思い出させた。既視感のようなものを」
その言葉は、雷のように私を打った。私は愕然として彼を見つめ返した。
「何を……おっしゃっているのですか?」
努めて冷静な声を装ったが、震える声が内面の動揺を裏切っていた。
リカルドは答えず、ただ静かに私を観察していた。その瞳の奥で、読めない何かが揺らめいている。耳をつんざくような沈黙の中、互いの荒い呼吸音だけが響いた。
永遠とも思える時間の後、彼は一歩下がってスーツの襟を正した。
「私の考えすぎかもしれないな」
彼の口調は礼儀正しい、他人行儀なものに戻っていた。だが、その視線は私を捉えて離さない。
「しかし、コルレオーネ一嬢。両家が今夜の会合を設けた以上……我々はまた会うことになるだろう」
それだけ言い残し、彼は踵を返して去っていった。私を一人、震えるまま廊下に残して。
今の言葉は、どういう意味だったの?
私は爪が掌に食い込むほど拳を握りしめた。両家が何を画策していようと、二度とあの男の生け贄にはならない。
今生こそ、結末を完全に書き換えてみせる。
