第72章 彼女の家はとても温かい

高橋裕也はユニットバスに入った。狭い。洗面台がひとつ、その奥にシャワー。浴槽すらない。

 洗面台の上には、彼女のものらしい淡い緑の歯ブラシと、同じ色合いのコップ、洗顔用のタオル、それからいくつかの化粧品がきちんと並んでいた。ぴかぴかに磨かれていて、水滴ひとつ残っていない。

 この女は、日々を丁寧に生きているのだろう。少なくとも家の中は、隅々まで清潔で、どこかほっとする温もりがあった。

 豪華な内装ではない。建物自体も古い。

 それでも彼女の手が入るだけで、ささやかな飾りも、簡素な家具も、この古びた家を温かく、穏やかな場所に変えていた。

 彼の家とは違う。黒と白と灰色だけの、ひやりと...

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