53。彼の腕の中で

彼は昔から夜が好きだった。特に満月の夜が。

性交か――あるいは、狩りか。

彼が好むのは、性交の方だった。

群れの雌たちが、欲望に満ちた瞳で彼の気を引こうと、その身を投げ出してくる夜。

温かい湯に浸かり、彼女たちの熱心な愛撫を楽しむ夜。あるいは、森で捕食者のように狩りをし、血への渇きを満たす夜もあった。

だが、今夜はいつもと違った。

これほどの怒りと不安を感じたことはなかった。一秒過ぎるごとに、父と築き上げてきたすべてを失うかもしれないという考えが、彼の心を蝕んでいった。

何時間も経った。もうすぐ陽が昇り、大地に光を投げかけるだろう。

「兄上?」

ヴァルキリーは汗ばむ手のひらを握りしめ、高鳴...

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