第113話シンデレラモーメント

そして突然……周囲の世界が、すとんと剥がれ落ちた気がした。金箔を施したアーチも、貴族たちで埋め尽くされた段状のバルコニーも、ろうそくの灯りに照らされた顔が身を乗り出して見守る気配も、その欠片のひとつひとつが、やわらかく鳴り響く静寂のなかに溶けていき、そこに残ったのは、向かい合って立つ私たち二人だけだった。息が喉に引っかかる。視線を落とし、ほかの女性たちがしていたカーテシーを見よう見まねで繰り返す。手足の震えが露わになっていませんように、と祈りながら。膝を折ると、幾重にも重なるドレスがさらりと囁いた。逃げ出したいという衝動と必死に戦う。立ち上がっても、彼は目を逸らさなかった。闇のように深い瞳が、...

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