第52章誰かがいなければならない

サルギス視点

息を切らして部屋へなだれ込んだ。香水と緊張の匂いが霧のように空気を満たしている。

だが、室内が修羅場になっていないと気づいた瞬間、胸の奥に安堵がどっと押し寄せた。

ナリネはベッドに座っていた。乱暴された形跡もなく、取っ組み合いの痕もない。

「オニカ」俺は呼んだ。

声に反応して彼女が振り向き、歯ぐきの見える眩い笑みを俺に向けた。腰をゆらりと揺らしながら、獲物へ近づく捕食者みたいなゆっくりした自信でこちらへ歩いてくる。

そして次の瞬間、何の前触れもなく俺に口づけた。

衝撃で体がこわばる。

彼女は俺の首の後ろをきつく抱え、昔そうしたように体を押しつけてきた。だが、俺はもう...

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