第65話きちんとしていればいいだけ

気を紛らわせるものが必要だった。どんな些細なことでもいい、渦を巻いて落ちていく思考を別の方へ向けたかったのだ。

「今日は少し遅いのね」咄嗟に浮かんだ、頼りない会話の糸をつかむように言った。

彼は立ち止まり、一拍ためらってからうなじを撫でた。「ああ。片づけなきゃいけないことがいろいろあって」

いろいろ、ね。私は心の中で苦く反芻する。その言葉には、静かな毒が滲んでいた。

彼女のこと、とか?

オニカも、その「いろいろ」のひとつ?

だから彼女の匂いが、消えない痣みたいにあなたのシャツにまだしがみついてるの?

だから私たちの間の空気が少し動くだけで、彼女の味が舌に残るの?

「ふうん」私は...

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