第5章

病室のドアが、まるで一つの時代の終わりを告げるかのように、ゆっくりと閉じていく。上野誠一の足音は、長い廊下の向こうへと吸い込まれ、やがて完全に聞こえなくなった。

笹原沙耶香は、固く目を閉じる。額に滲んだ冷や汗が、秋分の日の陽光を浴びて、最後の生命の輝きのように光った。

【彼は、最後の機会を自ら手放しました】

ルビー恋愛システムの無機質な声が、脳内で静かに響く。それは断罪の宣告にも似ていた。

沙耶香は薄く目を開け、窓の外に視線を送る。遠くの桜並木は黄金色に染まり、風が吹くたびに、はらはらと葉が舞い落ちていた。その一枚に触れようと手を伸ばしかけ、自分にはもう腕を上げる力さえ残され...

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