第110章

人影が、じりじりと近づいてくる。

藤原美緒は唐突に――死期が来た、そんな予感に襲われた。

嘘でしょ。こんなに運が悪いこと、ある?

留置場から戻ってきたばかりだというのに、このまま口封じでもされるってわけ?

「藤原さん?」

「……あなた?」聞き覚えのある声に、藤原美緒は心底ほっと息を吐いた。望津台の二階フロアのマネージャー、宮入秀憲。知っている相手だ。

穏やかな顔立ちに金縁の眼鏡。すらりとした長身で、元は国際的な男モデルの集団にいたとかで、悟に拾われた――そんな噂もある。

宮入秀憲が手を伸ばし、床にへたり込んでいた彼女を起こした。

「藤原さん、大丈夫ですか」

「さっき、誰かに...

ログインして続きを読む