第29章

「あれ、篠じゃない? 武治はもう危ないって話だったよな? なのに、本人はまるで堪えてる様子がないように見えるんだけど」

「グラスを交わして、あんなふうに笑ってるなんて……さすが篠ね」

悠は周囲の視線の先を追った。

篠は身体を少し傾け、行広睦子のほうを見ていた。何か話を聞いているらしく、表情にはかすかな驚きが浮かんでいる。けれど、その姿はむしろ艶やかで、ひどく華やかだった。

人混みの中で、スマホを取り出して篠を撮ろうとする者がいた。

「武治がくたばったら、篠もいつまであんなふうに威張ってられるかな……」

そう言いながら、豚みたいに肥えた男はぶよぶよの頬を震わせ、得意げに口元を歪める...

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