第34章

「ご飯、食べてないの?」

悠一が顔を上げると、篠が黒いサテンの寝間着のズボン姿で出てきた。裾が長いのか、少しだけ折り返している。

「うん」

「じゃあ出前でいいじゃない。自炊なんて面倒でしょ」

……やっぱり。世間の苦労を知らない、篠。

「ねえ、なんでいつも私のこと無視するの?」篠は椅子を引いて、膝を抱えるみたいにして台所の入り口に座り、悠一を見上げた。

白いワイシャツに黒いスラックス。すらりとした体躯を包むその姿は、いかにも“禁欲”の匂いがする。帝都の新進気鋭が市場を離れても、こうして自分で手を洗い、鍋に火を入れるなんて——誰が想像しただろう。

その家庭的な気配が、かえって篠の胸...

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