第62章

黒崎星矢には理由がさっぱり分からなかったが、相手が篠――芸能人だと聞けば、余計な詮索はせず言われたとおりにした。

篠はスーツを頭からかぶり、ぶるぶる震えながら黒崎星矢の胸に小さく丸まっている。

抱きかかえてみると、震え方が少し――いや、かなり激しい。

「不二さん?」

「寒いだけ。わざと震えてるんじゃない」

「大丈夫ですか?」

エレベーターの中、黒崎星矢はスーツで覆われたままの彼女を抱え直す。

篠がこほこほと咳き込み、掠れた声で吐き捨てる。どこか、壊れたみたいな響きだった。

「大丈夫なわけないでしょ。女の子の日、来てんの」

「……どうしてプールに落ちたんです?」

篠は心の中...

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