第71章

篠の別荘で、行広睦子はソファに寝転んでアイマスクを当てている篠を眺めていた。

それから配信のコメント欄を見て、腹を抱えて笑い転げる。

「なにその心理? 悠の目の前で、旦那が死んだみたいに泣いてさ」

「氷室様、そのとき何も言わなかったの?」

行広睦子は、あの場で悠がどんな気分だったのかが気になって仕方ない。内心、相当ムカついていたはずだ。

「言わなかったよ」

篠はずり落ちかけたアイマスクを指で押さえた。午後は“可哀想な私”を演じて泣きすぎたせいで、目がぱんぱんに腫れている。

でも、藤原伸彰の言葉を思い出すと――やった甲斐はあった。

自分が八百傷つこうが、相手に千の傷を負わせる。...

ログインして続きを読む