第75章

悠のアメとムチは、もはや達人芸だった。

新堂芳紀は彼の瞳をまともに見られない。普段は忍耐強く感情を表に出さない悠――その腹の内を、新堂が読み切れるはずもなかった。

「新堂さん、よく考えて」

その言葉の意味くらい、新堂芳紀だってわかっている。

悠が目をつけた人間や案件で、手に入らなかったものはない。

新堂芳紀はしばし黙り込み、脇に落ちた手を組み合わせて、ゆっくりと指を握りしめた。

「ひとつ聞いてもいいですか。どうして……俺なんです」

悠はソファに身を預け、茶碗を指先で軽く揺らす。近寄りがたい高みの態度に、冷たい刃が混じる。

「お前だけだ」

つまり、選択肢はない。お互いにな。

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