第86章

ちっ!

篠は鼻で笑った。百年の名家ってやつは、骨の髄まで染みついたものがある。そんなの、そう簡単に抜けるわけがない。

「お茶でも飲んで、ゆっくり見てろ」

黒崎星矢がカップを、篠の前へすっと押しやる。

篠は一瞬きょとんとした。……こんなに気が利くの?

行広睦子の言うとおりだ。黒崎星矢みたいな男は、何をしても「ちょうどいい」と思わせる。その「ちょうどよさ」が、いちばん人を惹きつける。

篠はカップを手に、面白がって成り行きを眺めた。篠が目を輝かせているのに対し、黒崎星矢はどこか淡々としている。だが、篠が聞きたがっているのを察したのか、真面目に解説を始めた。

「紀伊野豪は木須真莉の前に...

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