第8章

病院の廊下は消毒液の匂いが充満し、誰もいないホールに私の足音だけが反響していた。電話のメッセージで聞いた、耳にこびりついて離れないあの声が、まだ頭の中で鳴り響いている。「久しぶり、千晶。俺のこと、忘れかけてるんじゃないか?」

『最悪……なんでよりによって今なの』

特別室のドアを押し開けると、ベッドに腰掛けている蒼司の姿があった。頭には包帯が巻かれているが、その顔は痛いほどに見慣れたものだった。だが、彼が私を見上げた瞬間、私は完全に凍りついた。

彼の瞳が、違っていた。

自信家で遊び人だった頃の面影はどこにもない。そこにあったのは、深みと、痛みと、そして蒼司の中には見たことも...

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