第3章
葵視点
スカイダイビング合宿までの日々は、まるで処刑台へと向かう日々のようだった。毎朝、これがすべて悪夢であってくれと願いながら目を覚ます。陽介は父の名声も、私たち家族の事業提携も、すべてを人質に取り、私をこの死の罠へと無理やり追い込んだのだ。
六年間。ずっとそう考えていた。六年間もこの男を愛してきた結果が、これなのかと。しぬ!
十五歳のとき、医師たちの診断は明確だった。極度の身体的ストレス、突然のアドレナリン急上昇、高地。そのどれもが、致死性の不整脈を引き起こす可能性がある、と。そしてスカイダイビング? それは、私を殺すための条件がこれ以上なく揃っているようなものだった。
けれど、私にどんな選択肢があっただろう。陽介は自分が何を要求しているのか、正確に理解していた。彼はそのリスクを知っていて、それでも構わなかったのだ。
いいわ。合宿の朝、私は決心した。この六年間分の想いを、これを機にきっぱりと終わらせてやろう。
ジャンプ場までのドライブは拷問だった。陽介は安心させようと絶えず言葉を紡いでいたが、そのどれもが空虚に響いた。
「医療チームは最高水準だ」と彼は言った。「土方医師が君のバイタルを常時監視してくれる。それに安全装備は三度もチェック済みだ」
なんて思いやりのある男だろう、と私は内心で毒づいた。あまりにもあからさまに死なないように、万全を期してくれているというわけか。
「それに、本田奥様だって毎年やっているんだ」と彼は続ける。「君より年上なんだぞ、葵。彼女にできるなら……」
「あの人には心臓病がないわ」
「医師は、投薬と適切な監視があれば問題ないと言っていた」
私は窓の外に視線を向けて、黙り込んだ。
ジャンプ場に到着すると、その光景を見ただけで心拍数が跳ね上がるのを感じた。崖は六十メートルほど切り立っており、その下では荒れ狂う海が渦巻いていた。あたりにはプロ用の機材が散乱し、インストラクターたちがハーネスやパラシュートを点検している。
「中村奥さん!」本田奥様の声が場に響き渡った。「一大アドベンチャーの準備はいいかしら?」
中村奥さん。その偽りの肩書さえ、今は平手打ちを食らったように感じられた。
「ええ、覚悟なら……」と、私はなんとか声を絞り出した。
陽介が約束した医療チームとやらは、そこにいた。基本的な救急キットを持った、たった一人の救急隊員が。
健二と名乗る、日に焼けたインストラクターが手順を説明し始めた。彼の言葉に集中しようとするが、手は震え、高度とストレスだけで心臓はすでに高鳴り始めていた。
「タンデムジャンプです」健二は私のハーネスを点検しながら言った。「私が背中に固定され、パラシュートを操作します。あなたはただ、この空中散歩を楽しめばいい」
陽介が近くに立っていた。その顔には、偽りの気遣いが貼りついている。「きっとうまくいくよ、葵」
彼に向かって叫びたい衝動に駆られた。彼がどれほどの怪物であるか、ここにいる全員に暴露してやりたかった。だが、何の意味があるだろう? 数分後には、私は死んでいるか、この悪夢が終わっているかのどちらかなのだ。
その時、彼が目に入った。
拓海が、必死の形相でこちらへ走ってくる。ここまで無我夢中で車を飛ばしてきたに違いない。髪は乱れ、シャツには皺が寄り、眠っていないような顔つきだった。
「葵!」彼は叫んだ。「やめろ!」
「関係者以外は立ち入り禁止です」陽介が連れてきた警備の男の一人が、拓海の前に立ちはだかった。
「そこをどけ! 葵、そんなことしちゃだめだ!」
「葵」陽介が静かに言った。その手が、私の腕を強く掴む。「もう行かないと」
だが私は動けなかった。拓海から目が離せなかった。彼の瞳に浮かぶ純粋な恐怖と、彼を抑えようとする警備員たちに必死で抵抗する姿から。
「彼女には心臓病があるんだ!」拓海はインストラクターに向かって叫んだ。「こんなことをしたら、彼女は死んでしまうかもしれないんだぞ!」
健二は困惑した表情を浮かべた。「心臓病? 持病については何も聞いていませんが」
陽介の腕を掴む力が強まった。「管理されている。医師の許可も得ている」
「どの医者だ?」拓海が問い詰める。「葵、言うんだ! 自分の不整脈のことを!」
「葵」陽介の声は低く、危険な響きを帯びていた。「取引したはずだ」
私は彼を見た。六年間も愛した男。その瞳には、冷たい計算しか映っていなかった。そして拓海に目を向ける。私のもとへ辿り着こうと、今も必死にもがいている。そこには、私がずっと見失っていたすべてがあった。
だが、もう遅かった。本田さんは苛立ちを隠さずにこちらを見ているし、インストラクターも待っている。そして何より、父に対する陽介の脅しが、すべてに重くのしかかっていた。
眼下には、信じられないほど遠くに海が見えた。心拍モニターがけたたましく鳴り響いている。これだけは救急隊員が譲らなかったのだ。脈拍が危険なほど速くなっているのが自分でもわかった。
「三つ数えたら」と、背後でケンジが言った。「一……二……」
その時、私はそれに気づいた。ハーネスのストラップが緩んでいる。おかしい。振り返って何か言おうとしたが、ケンジはもうカウントを始めていた。
「三!」
私たちは跳んだ。
ほんの一瞬、落下する感覚と、海に向かって急降下する恐ろしいスリルがあった。そして、ハーネスが外れるのを感じた。
装備だ。装備の何かがおかしい。
健二から離れ、自由落下していくことに気づいた瞬間、パニックが全身を駆け巡った。心臓が胸の中で爆発しそうなほど、不規則な鼓動が肋骨を激しく叩きつける。
パラシュートは正常に開かず、絡まり、役に立たなかった。私は水面に激しく叩きつけられ、その衝撃で肺からすべての空気が押し出された。水面下に沈むと、口の中に塩水がなだれ込んできた。
心臓はもうめちゃくちゃだった。脈が飛び、速くなり、そして恐ろしい数秒間止まったかと思うと、また動き出す。泳ごうとしたが、視界の端から暗くなっていく。
助けて、と叫ぼうとしたが、口から出たのは泡だけだった。
一度だけ水面に顔を出し、必死に空気を吸い込むことができた。そのとき、崖の上にいる彼らが見えた。陽介と彼の警備チーム、本田夫妻。全員が、ただそこに立って見ているだけだった。
私は再び沈んでいく。心臓が、ついにその狂ったような不規則なリズムを諦めようとしていた。水はあまりにも冷たく、暗かった。
その時、突然、腕が私を包み込んだ。力強い手が、私を水面へと引き上げていく。
水面を突き抜け、息を吸い込み、むせ返ると、すぐ目の前に拓海の顔があった。その瞳は、パニックと決意で燃えていた。
「捕まえた」彼は私を胸に抱きしめながら、立ち泳ぎをして言った。「葵、しっかりしろ」
拓海?彼が、跳んだ!? 薄れゆく意識の中で、私は理解した。拓海は私を助けるために、崖から海へ飛び込んだのだ。安全装備も、パラシュートもなしに。ただ、間に合うように私のもとへ辿り着くためだけの、絶望的なダイブ。
「他の人たちは……」と私は喘いだ。
「あいつらのことなんか考えるな」彼は激しい口調で言った。「今は呼吸に集中しろ。助けは来る」
遠くでヘリコプターの音が聞こえた。拓海が、まともな救急サービスを呼んでくれていたのだ。
意識を失う前に最後に見たのは、海水でずぶ濡れになり、心配で歪んだ拓海の顔だった。彼の手は私の胸に当てられ、心臓の鼓動を確かめている。その唇は、まるで祈りを捧げるかのように動いていた。
この人は、私のために崖から飛び降りてくれた。闇が迫る中、私は思った。六年間も愛した男が、私が死ぬのをただ突っ立って見ていたというのに。
