第1章
うちのチームは四連敗を喫して、なぜかその原因が私だということになっていた――どうやら私は、ライバルチームにいる元彼にこっそりドーピングを渡していたらしい。
私はまだマットの手首にテーピングを巻いているところだった。そこへ、フル装備のままリードが怒鳴り込んできた。
「ふざけんなよ」
彼は部屋中に向けて言い放つ。「相手の第三ライン、見たか? あいつら、一週間ずっとエナジードリンク漬けだったみたいに飛び回ってたぞ」
ブロディが即座にうなずく。「第三ピリオドにしては動きすぎだろ」
私は俯いたまま、手を止めない。
「言っとくけど、何かおかしいんだよ」リードは続けた。「あいつら、スタミナありすぎる。体力ありすぎる」
「ただ私たちより厳しく練習しただけじゃないの」私は考えもせず口にしてしまった。
部屋が、しんと静まり返った。
リードが、ゆっくりとこちらを振り向く。
「へえ、ノーラ?」その声には危険な棘が混じっていた。「ずいぶん相手の練習事情に詳しいんだな」
胃の底に冷たいものが沈んでいく。
「そういえばさ」彼は一歩近づく。「三週間前の試合のあと、お前が相手の選手と話してるの見た気がするんだけど?」
コール。元彼。駐車場で五分だけ。
「あれは――」
「――何だよ?」リードの声が部屋に響いた。「敵と仲良くしてたってことか?」
ブロディが割って入る。「待てよ、お前あっちのチームに知り合いいんの?」
「州立大の人と付き合ってたの」私は言った。「もう何か月も前に別れたし、大したことじゃない」
「州立大の人と付き合ってた、ね」リードはその言葉をわざと口の中で転がした。「へえ、面白い」
何人もの視線が私に刺さる。
「俺が何を思ってるか言おうか?」彼は腕を組んだ。「ノーラちゃんはさ、ずいぶん『いい彼女』だったんじゃないかってな。相手が試合で……『元気』でいられるように、いろいろ手伝ってやってたんだろ」
「やめてよ」彼の笑みは残酷だった。「アスリートがどんな『助け』を欲しがるかなんて、みんな知ってる。しかもお前、医務室勤務だろ? いろんな……ドーピング薬に簡単に手が届く立場じゃないか」
私は口を開いた。
だが、彼は止まらない。
「つまり、お前は州立大の選手に内部情報を流してたってことだ。で、それだけじゃないだろ。あの男と、ずいぶん仲良さそうだったしな」
ブロディが笑う。「おい、それなら全部説明つくじゃん。ノーラは両方の味方ってわけだ」
「氷上の両サイドな」リードが言う。「ベンチの両サイドも、ってことだろ。言わなくても分かるよな?」
部屋がどっと沸いた。
――ありえない。
「しかも相手はでかくて強いホッケー選手ってか」ブロディが重ねる。「こいつ、アスリートに対する執着がすげえんだな」
「男の前だと自制できないらしいぜ」誰かが言った。もう誰の声かも分からない。
「ここにいるだろ、ノーラ」ブロディがにやつく。「わざわざ街の反対側まで行く必要ある? 欲しいもの、ここにあるじゃん」
リードもうなずく。「俺は体仕上がってるし、ブロディも仕上がってる。お前の『欲求』なんて余裕で満たしてやれるよ」
私はテープの芯を机に置いた。
爪が掌に食い込む。
「分かってるでしょ。本当は何の話か」私は言った。
リードの笑みは崩れない。「さあな。全然分かんねえ」
「――分かってる」自分でも驚くほど声が揺れなかった。「去年のことよ。私があなたを断ったこと」
部屋が静まった。さっきとは違う種類の静けさ。
何人かは目を伏せた。
「作り話してんだろ」リードが言う。顔が赤くなっていた。
「作り話?」私はバッグをつかむ。「あなたは今ここで、私が試合の情報と引き換えにセックスしてるって、みんなの前で言った。私があなたと寝なかった、それだけの理由で」
ブロディが何か言いかけた。
「ペイジに報告する」私はリードを押しのけるようにしてドアへ向かった。
「やってみろよ」背中に声が投げつけられる。「あの人はお前の傷ついた気持ちなんかより大事な仕事で忙しいんだ」
私はドアを叩きつけなかった。
叩きつけなかった。
廊下は空っぽだった。階段室にたどり着いたところで、手が震え始めた。
ペイジなら何とかしてくれる。彼女は医療部門の責任者だ。チームに対してちゃんと権限がある。今夜中に、こんな茶番は止めてくれるはず。
私は管理フロアまで上がった。廊下の突き当たり、彼女のドアの下から光が漏れている。足が速くなる。
もうすぐ、というところで――聞こえた。
かすかな、喘ぐような声。ドア越しに。
私は立ち止まった。
「……やだ、リード……うん、そう……」
ペイジの声。彼女は一人で自慰していた。
私はノックしようと上げた手のまま固まり、聞いてしまった。自分の上司が、私を苦しめる男の名前を呼びながら喘ぐ声を。
