第52章

松本絵里は別荘の玄関前に立ち、なかなかドアを開けて入る決心がつかなかった。

もし佐藤悟に尋ねられたら、どう答えればいいのか分からなかったからだ。

道中では彼が聞きそうな質問を無数に想定し、答えも用意していたが、

佐藤悟の鋭さを考えると、何か穴を見つけられるかもしれない。

そして言葉の綾に絡め取られ、うっかりすべてを暴露してしまうかもしれない。

「奥様、お帰りなさい」

円子が買い物に出かけようとドアを開けたところ、松本絵里が玄関の外に立っているのを見つけた。

「うん!彼はまだ家にいる?」松本絵里は後ろめたさを感じながら尋ねた。

「旦那様は昨夜もお帰りになっていませんよ」円子が答...

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