第55章

「おや、どこに連れて行くつもりなんだい?」

まさに松本絵里が命がけで抵抗しようとしたその時、聞き覚えのある声が響いた。

松本絵里がはっとした瞬間、佐藤悟はすでに彼女の側に現れ、さっと彼女を腕に抱き寄せながら、冷ややかな目で赤坂修司を見つめていた。

「どうしてここに?」松本絵里の声には、九死に一生を得たような驚きと喜びが混じっていた。

「来なきゃ、君さらわれちまうじゃないか」佐藤悟は胸の内の怒りを必死に抑えながら、軽く冗談めかして松本絵里の鼻先をつついた。本気で怒りを爆発させれば、この臆病な女性をさらに怖がらせてしまうと恐れたのだ。

「お前は誰だ?」赤坂修司は目の前の風格ある男を上か...

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