第60章

退勤時間まで、松本絵里はずっと憂うつな気分だった。

出張の件について、彼女は佐藤悟にどう伝えればいいのか分からなかった。

佐藤悟は敏感な人だ。彼女が佐藤裕也と二人きりで出張するとなれば、余計なことを考えてしまうかもしれない。

一日中頭を悩ませても、良い対策は思いつかなかった。

仕事が終わり、松本絵里が階下に降りると、いつもの黒い社用車は見当たらず、代わりに佐藤悟から電話がかかってきた。「絵里、おじいさんが急に具合が悪くなって、実家に戻ることになったんだ。田中に連絡しておいたから、彼が迎えに行くよ。少し待っていてくれる?」

「うん、私のことは心配しないで、早くおじいさんのところへ行っ...

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