第2章 結婚式で彼女に顔を立てる

「えっ? 人を変える? 田中唯、あんた気でも狂ったの!」

案の定、相手を変えるという話を持ち出すと、真っ先に継母の田中礼子が大声でわめき立てた。

田中唯はうつむき、彼女がわめき終わるのを待ってから、ようやく勇気を振り絞って言った。「高橋雄大が浮気したんです。だから彼とは結婚できません」

「ちっ、雄大さんがあんたみたいなのを好きになるわけないって、とっくに分かってたわよ。やっぱり私の思った通りね」

異母妹の田中春菜が、人の不幸を喜ぶように言った。

「結納金は返してもらえるの? あんたが代わりに見つけてきた男は何者? 結納金はくれるわけ?」田中礼子が性急に問い詰める。

その質問は……田中唯も、まだ考える余裕がなかった。

ただ、高橋雄大の結納金は、当然返さなければならない。鈴木晶が結納金をくれるかどうか……それを尋ねる勇気は、彼女にはなかった。

「お金は私が持ってるんだから、絶対に返さないわよ。もし高橋雄大があんたに結納金を返せって言ってきたら、自分で何とかしなさい」田中礼子が理不尽に言い放つ。

田中唯は拳を握りしめた。彼女が結納金を返すはずがないと分かってはいたものの、やはり腹が立った。

田中大志が苛立たしげに言った。「食事にするぞ。料理が冷めちまう。どうでもいい話はよせ」

「皆さんでどうぞ。私は病院でおばあちゃんに付き添いますから」田中唯は沈んだ声で言った。

田中大志は罵った。「お前は明日結婚するんだぞ。まだ病院なんかに行くのか。縁起でもない!」

「放っておきなさいよ。あの子はいい孫だから、孝行したいんでしょ。させてやればいいじゃない」田中礼子が皮肉を言う。

田中唯は急いでその場を離れた。ドアを出た瞬間、目が赤くなり、涙がこらえきれずにこぼれ落ちた。

考えすぎだった。この家では、おばあちゃん以外に誰も自分のことなんて気にかけていないのだ。

でも、それでいい。余計な口論をしなくて済むのだから。

「田中さん、明日結婚式じゃなかったですか? まだおばあ様のお見舞いに?」

看護師は彼女を見て、驚いた表情を浮かべた。

田中唯は気まずそうに笑って説明した。「準備はもう終わったので、おばあちゃんに付き添いに来ました」

「本当に偉いわね!」

看護師は褒めてくれた。

しかし、背を向けた後、残念そうにため息をついた。

田中さんはここに三ヶ月入院しているが、肺がんの末期で、今はただ時間を引き延ばしているだけだ。

三人の子供がいると聞くが、頻繁に世話をしに来るのは、この孫娘だけだった。

「おばあちゃん、会いに来たよ」

田中唯はおばあちゃんのベッドの前に座り、骨と皮ばかりになったその手を握った。

田中さんは看護師と同じように、驚きの表情を浮かべ、か細い声で尋ねた。「どうしてこんな時間に?」

「大丈夫。もう準備は終わったから」田中唯は無理に笑って答えた。

田中さんは喃々と呟く。「残念だねぇ。私の体がこんなんじゃなかったら、あんたの晴れ姿をこの目で見たかったのに」

田中唯の目が赤くなった。高橋家は、おばあちゃんの体調が悪いことを嫌い、末期がんの人間が結婚式に参加するのは不吉だと言って、出席を拒んだのだ。

高橋雄大に至っては、病院は縁起が悪いと嫌い、一度も見舞いに来たことがなかった。

おばあちゃんに申し訳ないことをした。

「おばあちゃん、安心して。彼はとてもいい人よ。私にも、とてもよくしてくれる」

おばあちゃんを安心させるため、再び声を詰まらせながら保証するしかなかった。

田中唯が家に帰ったのは、空が白み始めた頃だった。すでにメイクアップアーティストが到着していた。

田中春菜がわざと嫌味を言う。「雄大さんにあんたは捨てられたのに、メイクさんの費用は誰が払ってくれるの?」

田中唯は眉をひそめた。そうだ、メイクアップアーティストもホテルも高橋家が手配したものだ。

昨日は頭が混乱していて、そこまで考えが及ばなかった。

そもそも高橋雄大と話し合ってもいない。高橋家が予約したホテルは、彼女が新郎を変えることを許してくれるだろうか?

「田中さん、ご安心ください。鈴木様からご依頼を受けております」メイクアップアーティストがすぐに助け舟を出してくれた。

その時、彼女の携帯が鳴った。知らない番号だった。

「もしもし」

「鈴木晶だ」

「あな……どうして私の電話番号を?」

昨日、連絡先を交換した覚えはなかった。

「メイクは俺が手配した。心配せず使ってくれ。ホテルのことも心配いらない。すべて処理済みだ」鈴木晶は彼女の質問には答えず、彼女を安心させる言葉を告げた。

「もし後悔しているなら、まだ間に合います」

田中唯は少し躊躇った後、やはり親切心から忠告せずにはいられなかった。

彼も昨日は腹を立てていたから、勢いで結婚すると言ったのだろうと思ったのだ。

一晩もあれば冷静になるには十分だ。もし彼が今になって後悔しても、彼女は完全に理解できる。

「俺がやると決めたことに、後悔はない」

男はきっぱりと言い放ち、電話を切った。

田中唯は呆然と携帯を握りしめ、呆れて心の中で思った。ずいぶん気が強い人?

まあいいか。とにかくまず結婚しないと、今日の説明がつかない。

「ママ、あの子のウェディングドレス、すごく綺麗。私も結婚する時、あんなのがいいな」

田中唯がメイクを終えて出てくると、雪のように白い美しいウェディングドレスを着た彼女を見て、田中春菜が田中礼子にねだった。

そのドレスはメイクアップアーティストが持ってきたもので、センスが良く、田中唯をより一層美しく見せていた。

「何を羨ましがることがあるの。高橋家に婚約破棄されて恥さらしよ。急遽どんな男を捕まえたんだか。あんたのお父さんより年上だったりしたら、私たち家族みんなが恥をかくことになるわ」田中礼子が皮肉を言う。

田中唯は振り返り、継母に向かって反論した。「高橋家に破棄されたんじゃなくて、私が高橋家との婚約を破棄したんです。それに彼は若いですから、安心してください。皆さんに恥をかかせるようなことはありません」

「ちっ、誰が信じるもんですか」田中礼子は白目をむいた。

「うわ、すごい派手」

階下が急に騒がしくなり、多くの人が窓から顔を覗かせた。

「田中さん、お迎えの車が来ましたよ」メイクアップアーティストが声をかける。

田中唯が出かけようとすると、田中礼子が田中春菜を引っ張って、彼女より先に無理やり押し出た。

しかし、階下に降りてみると、先頭にいるのがストレッチリムジンのロールス・ロイスで、その後ろに続くのもすべて高級車なのを見て、唖然として口を開けたままになった。

「絶対じじいに決まってるわ。じゃなきゃこんな良い車を借りる金なんてないもの」田中礼子が断定的に言った。

「ママ、降りてきた」

田中春菜は興奮しきって、車から下卑た老人が降りてくるのを期待していた。

ところが、車から降りてきた男はとても若く、しかも非常に顔立ちが整っていた。

精緻な顔立ちに、鋭く深い輪郭。涼しげで静かな目元は、デパートを縦横無尽に駆け巡る威厳を全身から放っている。

人を寄せ付けない、圧倒的なオーラがあった。

彼は車を降りると、軽く服を整え、優雅な仕草で歩み寄ってきた。

「時間通りだな」

鈴木晶は田中唯の前に立つと、彼女に向かって手を差し伸べた。

田中唯は顔を赤らめた。

二人は婚姻届を出したとはいえ、彼の顔をまじまじと見たことさえなかった。

彼が格好いいことは知っていたが、今日、白いスーツを着て新郎として現れた姿は、まるでおとぎ話の白馬の王子様のようだ。全身がまばゆい光に包まれているようで、直視できなかった。

「ママ、じじいだって言ってたじゃない。なんでこんなに若くて、こんなにハンサムなの?」田中春菜は羨ましさで泣き出しそうだった。

田中礼子の顔色も良くない。腹立たしげに彼女の手を振り払い言った。「偽物に決まってるわ。きっと臨時で雇った役者よ」

「お前たち、ごちゃごちゃ言うな。先にホテルに行くぞ」

田中大志は興奮していた。こんな良い車に乗るのは初めてで、待ちきれないとばかりに乗り込んだ。

「どうしてこんなに大仰なんですか?」

田中唯が男と共に車に乗り込む時、小声で不安そうに尋ねた。

派手すぎる。マンション中の人が見物に出てきている。

「気に入らないか?」男が尋ねる。

田中唯は顔を赤らめながらも、思わず口角が上がる。もちろん、気に入っていた。

生まれてこの方、こんなに自分の面目を立ててくれた人は誰もいなかったのだから。

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