第276章 金で人の命は買えない

 菊地亜美も哀れな女だ。

 失踪前に娘の身の回りを整え、さらに娘のために大金まで用意していた。毎月決まった額を口座に振り込ませ、娘に対する責任を果たしたつもりだったのだろう。

 ただ彼女が思いもよらなかったのは、託した相手が人を見る目のない、田中大志というクズだったということだ。

 彼女の金を受け取りながら、その娘の面倒をきちんと見なかったのだから。

「唯、もう飲むのはやめなさい。酔ってるわよ」

 バーで、田中唯は遥姉に酒を奢っていた。辛い気持ちから、一気に二杯も呷ってしまった。

 飲み干すとすぐに意識が朦朧とし、頭をうなだれて座り込んだ。だが、手は無意識にまたグラスへと伸び、そ...

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