第261章 足りない

正午。

桐島征十郎はホテルの個室に座っていた。

以前から不眠に慣れていたためか、昨日も一睡もしていないというのに、その顔に疲労の色は窺えず、ただ微かな厭世の気配を漂わせているだけだった。

佐々木隆美が個室の入り口に控えている。

十二時十分過ぎ、この階のエレベーターの扉がゆっくりと開いた。

下林淳子がホテルの支配人に案内され、エレベーターから姿を現した。

「下林さん」佐々木隆美が恭しく出迎え、支配人に下がるよう目配せをした。「桐島社長はすでに中でお待ちです」

下林淳子は少し離れた個室を一瞥した。「佐々木秘書は、私が遅刻したとでも言いたいの?」

佐々木隆美は頭を下げる。「滅相もご...

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