第345章 母の遺品

石野幸治は、藤咲花音が目の前へ差し出した名刺を見つめた。

整った文字が、いやでも突きつけてくる。自分と桐島征十郎の間に横たわる、埋めようのない差を。

しばらく視線を落としたまま、胸の奥からじわりと敗北感が湧き上がってきた。

「い、いえ……大丈夫です」

顔を上げ、藤咲花音へぎこちなく笑ってみせる。

「俺、たぶんこの先はA市に残って働くこともないと思いますし……桐島社長にご面倒をおかけするのも、悪いので」

そう言い終えると、彼は花音の隣にいる人物へちらりと目をやった。

以前はA大の天才、桐島翔太。今は、それ以上の存在――桐島征十郎。

結局、自分は誰にも敵わない。藤咲花音を、ただ遠...

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