第349章 君だ

桐島征十郎は車を走らせながら、ふいに胸がざわついた。

反射的に藤咲花音へ電話をかける。

呼び出し音だけが、むなしく続く。出ない。

心の底が、じわりと冷えていく。視線を上げると、A大はもう目と鼻の先だった。

桐島征十郎はアクセルをさらに踏み込み、速度を上げた。

家族宿舎の門前に、藤咲花音とルクの姿はない。

もし彼女が先に戻っているのなら、ルクを連れて、ここで自分を待っているはずだ。

「桐島征十郎!」

背後から、息を切らした怒声が飛ぶ。

桐島征十郎が振り返ると、石野幸治が駆け寄ってきていた。彼は桐島征十郎の目の前まで来るなり、指を突きつけて詰め寄る。

「どこ行ってたんだよ! ...

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