第362章 君のために席を取っておく

リビングが、ふっと静まり返った。

石野幸治の強張っていた眉間が、ゆっくりほどける。数秒ほど呆けたあと、彼はまた藤咲花音の視線を避けはじめた。

その反応を見て、花音はますます確信する。

「あなた……桐島翔太の後輩なの?」

確か石野幸治と桐島翔太は同じ学科だったはずだ。大学時代、桐島翔太に会いに行ったときに、すれ違っていてもおかしくない。

ただ――当時の花音の視界には桐島翔太しか入っていなかった。たとえ偶然目にしていても、覚えていないのだろう。

石野幸治は俯いたまま、答えなかった。

やっぱり。当たりだ。

なのに、どれだけ記憶を辿っても、石野幸治の姿だけが浮かんでこない。

「ごめ...

ログインして続きを読む