第60章 誘惑したのは彼女だ

「何を仰るのですか?」

藤咲花音は池の中でもがく男を一瞥し、次いで如月奈々へと視線を転じた。

如月奈々の傍らには桐島翔太と桐島蘭子、その背後には物見高い群衆がぞろぞろと続いていた。まるで不義密通の現場を押さえにかかるような物々しい気配だ。

もしあの男の企みが成功していたら、桐島蘭子はこの衆人環視の中で、彼女の身ぐるみを剥ぐような真似さえ辞さなかっただろう。藤咲花音はそう確信していた。

如月奈々は彼女を見、ようやく池から這い上がってきた男を見て、口を半開きにしたまま言葉を失っている。

どうしてこんなことに?

一条愛莉は、すべて手筈通りだと言っていたのに……。

収拾の...

ログインして続きを読む