第66章 もう別れた

電話を切ると、藤咲花音の表情は苦虫を噛み潰したように歪んだ。

桐島翔太が忘れているはずがないことなど、彼女には痛いほど分かっていた。

長年付き合ってきた中で、彼がこの日を忘れたことなど一度もなかったのだから。

彼はただ、この件を盾に彼女を脅しているのだ。彼がいなければ、祖母の入院費さえ払えないのだという現実を、残酷なまでに突きつけるために。

佐々木舞が心配そうに声をかけた。

「カノン姉さん、どうしたの?」

藤咲花音はハッと我に返ったが、口の中には苦い味が広がっていた。

「ううん、何でもない……」

言いかけて、彼女は奥歯を噛み締め、恥を忍んで口を開いた。

「舞ちゃん、お願いが...

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