第82章 知らない

藤咲花音の座る位置は低い。

桐島征十郎の角度から見下ろすと、形の良い鎖骨が露わになっており、その窪みが絶妙な弧を描いているのが見て取れた。

白く、美しく、清らかで――まるで誰の手にも触れられていないかのような無垢さを漂わせている。

征十郎の脳裏に、藤咲花音と桐島翔太が結婚した翌日の記憶が蘇る。

本邸の門前で遭遇したときのことだ。

今よりも距離は離れていた。

だがそれでも、花音の肩から首筋にかけて刻まれた赤い痕跡が目に入ったのだ。ほんの一瞬露出し、すぐに衣服で隠されてしまったが。

あの赤さはあまりにも鮮烈で、征十郎は最初、生まれつきの痣かと思ったほどだ。

しかしその後、どれだけ...

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