第1章
「山下さん、子宮の状態は極めて深刻です。これ以上の悪化を防ぎ、命を守るためにも、早急な摘出手術をお勧めします」
医師の声は冷静だったが、その内容はあまりに残酷だった。
山下麻友は出力されたばかりの診断書を手にし、指先が凍りつくのを感じた。子宮摘出?
その言葉は鋭利な刃物のように、彼女の腹部を何度もえぐった。
山下麻友の顔色は紙のように白く、額には脂汗が滲んでいる。
まさか五年前のあの事故が、彼女の生活を根底から覆しただけでなく、母親になる機会さえも奪うとは。
彼女は乾いた喉を無理やり動かし、掠れた声で言った。
「……とりあえず、痛み止めを処方してください。手術のことは、少し考えさせてください」
医師は長い沈黙の後、小さくため息をつき、処方箋を書いた。
薬局の窓口には長い列ができていた。
腹部の激痛は増すばかりで、山下麻友は冷たい壁に寄りかかり、なんとか体を支えていた。
ようやく順番が回ってきたが、薬剤師は困ったような顔をした。
「お客さん、この強力な鎮痛剤ですが、在庫があと一箱しかないんですよ」
「構いません、一箱だけでも」
山下麻友は救いの藁にすがるような思いで急いで答えた。
薬剤師が薬を取りに背を向けたその時、背後から聞き覚えのある男の声がした——
「足元、滑るから気をつけろよ」
山下麻友が弾かれたように振り返ると、今この瞬間、最も会いたくない人物がそこにいた。
夫の山口洸人だ。
仕立ての良い黒のスーツに身を包み、その立ち姿は凛としている。
そして彼の傍らには、すでにお腹が目立ち始めている橋本美波がいた。亡き親友の従妹でもある女だ。
橋本美波も彼女に気づき、わざとらしく驚いた声を上げた。
「麻友さん? 奇遇ですね」
山口洸人の視線が山下麻友を捉えると、そこには冷ややかな嫌悪が浮かんだ。彼はすぐに視線を外し、橋本美波には打って変わって優しく気遣うように言った。
「医者は赤ちゃんも順調だと言っていたが、どこか具合の悪いところはないか?」
それは、山下麻友には一度も見せたことのない穏やかな態度だった。
橋本美波は彼に寄り添い、甘えるように答える。
「洸人さんがこんなに良くしてくれるんだもの、具合なんて悪くないわ。ただ、お腹が大きくなってきて、膝に負担がかかるのかしら、少し痛むの。洸人さん、私たちも痛み止めをもらえないかしら?」
山口洸人はすぐに薬剤師に目を向けた。
「鎮痛剤はあるか?」
ちょうど最後の一箱を持って戻ってきた薬剤師が答える。
「これでおしまいです。こちらのお客様も必要とされてまして」
彼は山下麻友を指差した。
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、別の手が素早く伸び、薬剤師の手からその鎮痛剤を奪い取った。
「妊婦が使える鎮痛剤って、これしかないみたいなんですよね……」
橋本美波は残念そうな顔で無邪気に瞬きをした。
彼女はおどおどとした様子で山下麻友に話しかける。
「麻友さん、私、妊娠してるの。ねえ、この薬、譲ってくれないかしら?」
山下麻友が答える間もなく、彼女は慌てたように、わざとらしく悔やんでみせた。
「ごめんなさい麻友さん、私ったら気づかなくて。麻友さん、顔色がすごく悪いわ。私なんかよりずっと必要よね! やっぱり譲るわ! 痛いけど、私が我慢すればいいことだもの、大丈夫」
「ただ、赤ちゃんが可哀想ね。ママと一緒に痛い思いをしなきゃいけないなんて」
そう言いながら、彼女は無意識のように自分のお腹を庇い、その瞳には母性愛が溢れていた。
これは私に出された薬なのに!
山下麻友の胸の奥から怒りが湧き上がったが、痛みのあまり言い争う気力もなかった。
「悪いけど、私も痛いの。その薬が必要なの……」
歯を食いしばってそう言い、彼女を地獄の苦しみから救ってくれる薬を取り返そうと手を伸ばした。
だが、その手が届く前に、山口洸人が彼女の手を乱暴に払いのけた。
彼は唇の端を吊り上げ、極めて冷酷な嘲笑を浮かべた。
「山下麻友、五年経ってもお前は変わらないな。仮病を使って同情を引く以外に能がないのか? 今度は誰を殺すつもりだ?」
その言葉は山下麻友の心臓に深く突き刺さり、彼女が必死に封印していた記憶を引きずり出した。
もし選べるなら、五年前のあの雨の夜、山下麻友は誓って言う。たとえ自分がなぶり殺しにされようとも、あの助けを求める電話などかけなかっただろう。
そうしていれば、小林菜々緒が無惨に死ぬことも、山口のお祖父様が心労で亡くなることも、そして山口洸人にこれほど憎まれることもなかったはずだ……。
「山口洸人、私は……」
山下麻友は唇を震わせ、弁解しようとした。
「黙れ!」
山口洸人は鋭い声で遮った。
「お前の嘘など、一言も聞きたくない!」
彼は財布から分厚い札束を取り出すと、彼女の頭上から投げつけた。
「この金を持って失せろ! 目障りだ!」
彼はもう彼女を見ようともせず、本来彼女のものであるはずだった鎮痛剤を手に、きびすを返した。
橋本美波は彼の腕に寄りかかりながら振り返り、勝ち誇ったような視線を彼女に投げかけた。
二人が寄り添って去っていく背中を見つめながら、山下麻友の心臓は一瞬にして痛みを失い、代わりに麻痺したような感覚に襲われた。
五年にわたる忍耐と苦痛が、この瞬間、限界点に達したのだ。
彼女は全身の力を振り絞り、その冷たい背中に向かって言った。
「山口洸人、離婚しましょう」
一瞬、静寂が流れた。
山口洸人が振り返る。その顔には興ざめしたような嘲りが浮かんでいた。
彼は気にも留めない様子で、まるで冗談でも聞いたかのように言った。
「手を変えたのか? 退いて進む戦法か? 残念だが俺には通用しない。離婚だと? いいだろう、望み通りにしてやる」
「山口の妻の座が要らないというなら、成仏させてやるよ。今日から、山口の妻としての特権はすべて剥奪だ」
「好きにして」
山下麻友は力なく苦笑した。
山口の妻の特権? そんなもの、私にあっただろうか。誰でも私の頭上に乗り、好き勝手に侮辱し、貶めることができる、そんな特権が?
山口洸人は眉をひそめた。山下麻友がこれほど冷静だとは予想外だったようだ。彼は声を低くし、脅すように言った。
「離婚はお前が言い出したんだ。後悔するなよ」
山下麻友の体は強張っていたが、震える声を抑え込んで言った。
「ええ、山口洸人。私は後悔しないわ。あなたもそうであることを祈るわね」
腹腔内で波のように押し寄せる絞るような痛みに耐え、山下麻友はそれ以上留まることなく、ほとんど意地だけで病院の出口へと歩き出した。
運転手が待機しているはずの場所は、空っぽだった。
おそらく山口洸人が、彼女を乗せる必要はないと帰らせたのだろう。
山下麻友の視界が涙で滲んだ。
十数年も愛し続けた人は、本当に残酷で非情だ。最後の表面的な体裁さえ保とうとせず、これほどまでに彼女を惨めな目に遭わせるのだから。
いいわ。これからは、二度と会うこともないでしょう。
