第129章

「洸人?」

その声に山口洸人が振り返ると、木陰のすぐ先に渡辺教授が立っていた。

かつての教え子の姿を認め、渡辺教授は相好を崩した。

「さっき客席で君を見かけたんだよ。声をかけようと思ったんだが、舞台裏で少しトラブルがあってね。ふと振り返ったら、もう君はいなくなっていた」

渡辺教授はこの大学に長年務める重鎮であり、学生への指導も熱心で誠実な、極めて人格の優れた教育者だった。山口洸人も彼には敬意を払っている。

「渡辺教授、ご無沙汰しております」

渡辺教授は山口洸人の周囲を見回した。

「君一人かね? 麻友さんは? 結婚してもう長いだろう、お子さんはまだかな?」

「ええ、おりません」...

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