第141章

「契約書は二部作成した。こっちは君の分だ」

山口洸人はそのうちの一通を山下麻友に手渡した。

麻友はそれを受け取り、並んで記された二人の署名を眺めると、ふと皮肉めいた感情がこみ上げてきた。

五年前の結婚の時も、彼らはこうして一枚の紙に名前を書き記した。あの頃の彼女は喜びに満ちあふれ、それが幸福の始まりだと信じて疑わなかった。

そして五年後の今、彼らは再び書類にサインを交わしている。

離婚届かと思いきや、まさかの借用書とは。

貸し借りなし……。実にさっぱりとしていて、後腐れがない。

「……ありがとう」

とにもかくにも、これで小林柚奈の窮地は救われる。麻友はわだかまりを飲み込み、そ...

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