第172章

「姉ちゃん」という言葉を耳にして、小林柚奈の虚ろな瞳がようやくゆっくりと焦点を結んだ。

彼女は数時間にわたって苛まれ、すべてを終わらせようと何度も自らに手を下そうとした。だが、どれほど恐怖に震え、どれほど絶望しようとも、決して泣くことはなかった。

一滴の涙すらこぼさなかったのだ。

しかし今、山下麻友の姿を認めた瞬間、ついに張り詰めていた糸が切れ、声を出して泣き崩れた。この世の最後の救いの藁にすがるように、山下麻友の袖を死に物狂いで握りしめる。

山下麻友は着ていた上着を脱ぎ、震える小林柚奈の体をしっかりと包み込んだ。

彼女が小林柚奈を連れてこの暗く湿った場所を抜け出し、リビングに出る...

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