第31章

山下麻友の不安げな表情を目にし、山口洸人の苛立ちは潮が引くように静まっていった。

だが、車内の空気はピンと張り詰めたままだ。

山口洸人は山下麻友を抱きしめていた腕を解いたが、その手首だけは離さず、何かを言いかけようとした。

その時、コンコンと窓ガラスが叩かれた。橋本美波だ。

「……もう、放してくださる?」

山下麻友が冷ややかな皮肉を込めて笑う。

山口洸人は彼女を横目で睨みつけると、万力のように掴んでいた手を離した。

彼はウィンドウを下ろした。

そこに立っていたのは、案の定、橋本美波だった。

彼女のワンピースにはコーヒーの染みがこびりつき、髪もどこか乱れている。

「洸人」

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