第50章

山下麻友は通話ボタンを押し、スマホを耳に当てた。スピーカーにはしていない。

「どこにいる」

山口洸人の声は冷淡だった。

「ちょっと用事があって。どうしたの?」

電話の向こうで、山口洸人は眉をひそめてスマホ画面を見たに違いない。その声があまりにも優しく、従順で、普段の彼女とは似ても似つかなかったからだ。そんな山下麻友を見たのは、もう五年も前のことになる。

「……近くに誰かいるのか?」

山下麻友は落ち着き払って答えた。

「ええ。用が済んだら、折り返すわ」

隣では、部長が探るような視線で彼女をじろじろと見ていた。

山下麻友は覚悟を決め、無理やり持ち上げて甘い声を出した。

「あな...

ログインして続きを読む