第85章

山下麻友はベランダに立ち、ぼんやりと夜の闇を見つめていた。

大奥様の体調は日に日に悪化している。先ほど部屋へ送り届けた際も咳き込んでいたが、頑として病院での検査を拒んでいるのだ。

山下麻友はスマートフォンを取り出し、山口洸人に電話をかけた。

彼に釘を刺しておく必要がある。大奥様の性格上、本当に病魔に侵されていたとしても、彼には決して言わないだろうから。

コール音の後、電話はつながった。だが、聞こえてきたのは山口洸人の声ではなかった。

「あら、何かご用?」

佐々木陽奈だ。

この声だけは、生涯忘れることがないだろう。

「なぜあなたが彼の携帯を持っているの?」

「そんなの、決まっ...

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